石の2 「爆弾が爆発しても死なない薬」について


月光仮面1 年をとってくると、どうしても毎日何種類かの薬を
飲むようになる。ぼくの場合は、喘息と痛風の薬を毎日
飲んでいる。その上に、酒飲みだから、肝臓のために、
これは薬ではないが、サプリメントとして、「ウコン」も
毎日飲んでいる。
 そうなると、「あれ、今日は、あの薬飲んだっけ?」と
わからなくなることがある。じいちゃんのようである。

48歳の時、突然、右足の親指に激痛が走り、眠れないほど
になり、病院に行くと、「痛風」だと言われた。
肉や魚卵などの栄養価の高いものばかり喰っていると発病
する。だから、昔の貧しい日本では、「ぜいたく病」と言われた。
でも、今の日本は貧しくないので、偏食をすれば、誰でも
発病する可能性がある。男性に多いという。
その痛みが、病院でもらった薬を飲むと、すぐに納まった。
薬ってありがたいたなあ、と思った。

その時、ふっと思い出したのが、月光仮面の映画である。
月光仮面というのは、昭和30年代に大ヒットした子供向けの
テレビドラマである。正義の味方であり、二挺拳銃を手に、
悪人を懲らしめるという勧善懲悪のわかりやすいドラマであり、
月光仮面2 当時の少年達のヒーローだった。映画にもなった。

小学校低学年のぼくは、おばあちゃんに連れられて映画に行った。
当時の映画は白黒で、表題に続いて、月光仮面がバイクで走り、
主題歌が流れると、観客席の子供たちはみんな一緒に歌った。
画面と一体であり、すごいノリだった。これぞ映画。
引っ込み思案のぼくが歌わずにいると、おばあちゃんから
ほら、あんたも歌わんね」とどつかれた。

そして、こういう映画の場合、一本完結ではなく、映画の最後に
つづく」と出て、2話で完結ということも多かった。
 ある時、月光仮面の普通人の姿である祝十郎と警部と科学者の
3人が悪者の地下牢に閉じ込められて、時限爆弾をしかけられて、
悪者はみんな逃げた。あと少しで、爆弾が爆発する。どーするのだ?
というところで「つづく」となって、映画は終った。
ええー!?主人公が死ぬわけはないのだが、
一体どうやって助かるのだ?

当然、続きの映画を観に行った。
月光仮面3 すると、冒頭、地下牢の3人。警部が「もう、だめか」とつぶやく。
ところが、科学者が「待ってください」と胸ポケットをさぐり
「この薬を飲んで下さい」と3つのカプセルを差し出す。
実は、私は最近、爆発にあっても死なない薬を
発明したのです

「ええっ?ほんとですか、では…」
と、3人が薬を飲んだ途端、爆発が起きる。
 しばらくして、瓦礫の中から、3人が地上に現れる。
ネクタイとスーツ姿で、肩や腕のほこりをパタパタと払って、
「いやあ、おかげで助かりました」と科学者に頭を下げる。
科学者って、すごいなあ、とぼくは素直に思ったもんだ。

それ以後しばらく、子供達の遊びでは、これが流行った。
ピストルでバンと撃たれたら死ななければならないのに
「撃たれても死なない薬を飲んだ」と言い張るのだ。
チャンバラごっこでも、切られたのに、
「切られても死なない薬を飲んだ」と言う。
「ずるかよ!」とずいぶん揉めた。

石 元にもどる