da
石の2 ダルマ、ジョニ赤、やがて焼酎


ダルマ1 2012年になって、ウィスキーを炭酸で割った「ハイボール」という
飲み方が再流行しているという。なんであんな美味くもないもんが?
と不思議なのだが、サントリーが仕掛けているらしい。
元々は、1960年から70年代頃の飲み方であって、ぼくが大学生に
なった時に隣のお姉さんからデートに誘われて、初めてスナックに
行った時に、飲んだのがこれだった。ウィスキー自体も、サントリーの
製品ながら、二級品としてのブランドである、トリス・ウィスキーという
安いウィスキーが主に使われていたように思う。

そのうち日本の景気が良くなってくると、多くのサラリーマンがバーや
スナックでキープするウィスキーの銘柄は、サントリーの「角」そして
「オールド」通称「ダルマ」に格上げになり、飲み方も、水割りか、氷だ
けのロックに変わっていった。飲み屋にオールドのキープを置くという
のが、いっぱしのサラリーマンになった証明であり、やがて、どこの
スナックに行っても、名前を書いたオールドが棚にずらーっと並ぶよう
になった。

しかし、金のない、ぼくのような大学生は、同じサントリーでも千円の
「レッド」、通称「悪酔いレッド」と呼ばれる銘柄をもっぱら飲んでいた。
その後、サラリーマンになってから、家で飲む酒は、少し格が上がっ
て、サントリー・ウィスキーの白(ホワイト)になり、外で飲む場合は
オールドになるのである。
しかし上には上があって、専務や社長クラスになると、あるいは銀座
のクラブ辺りでの接待では、洋酒が主流であり、その代表格がスコッ
チのジョニ赤、ジョニ黒だった(ジョニーウォーカーの赤と黒)。値段は
ダルマ2 今のおよそ数10倍はしただろう。
ところが、いざ海外に行ってみると、日本より遥かに安く買えるので、
海外旅行に行ったサラリーマンは、おみやげとして、たいていこれを
買い込んできたものである。しかし時は過ぎ、今は国内でもせいぜい
2000円くらいで買えるので隔世の感がある。

家でも外でもウィスキーばかり飲んでいた20代だったが、そのうち、
サントリーから「樹氷」が発売された。甲類焼酎である。水割り、ロック
以外にトマトジュースで割ろうが、オレンジジュースで割ろうが、それ
なりにおいしいし、値段も千円と安いし、すっかりそちらに移動してし
まった。「樹氷」に関しては、テレビCMで田中裕子が「タコがね…」と
言うのが人気になった。しかも二日酔いしにくいときている。
そして、1980年代になると、甲類焼酎を、炭酸とレモンジュースで
割った「チューハイ」というのが居酒屋でブームになった。

そのうち九州に引っ越すと、タイミングを合わせるように、本格焼酎が
ブームになった。なにしろ、、九州は本格焼酎の本場なのである。
大分の「いいちこ」などが有名だが、このいわゆる本格焼酎(乙類)は、
麦焼酎や芋焼酎など、香りも味わいもあるので、お湯で割って飲むの
が普通である。そして、2004年には遂に、日本酒の消費量を、焼酎
の消費量が追い越してしまった。
そのひとつの理由として、日本酒は飲み過ぎると二日酔いするが、
焼酎は悪酔いせずに、翌朝まで残らないというのが大きな理由だった。
確かにそうなのである。

ぼくらの青春時代の頃の日本酒というのは、戦後すぐの物不足の頃
に粗製乱造されたままの、とにかく甘いだけの品質の悪いものであり、
ダルマ3 悪酔いするものだった。だから、本格焼酎に駆逐されたのだが、最近
になって、日本酒が様変わりしている。地方の日本酒の蔵元の若手
主人が全国的に競って、質の高い日本酒を創造しているのである。
地酒として実に多くの種類が出回っているが、まるで高級ワインのよ
うなフルーティーな味わいだったり、あるいは純粋な水のような味だっ
たりする。こうなると、輸出しても誇れるものであり、今では世界中で
SAKEとして人気が出ている。

さらに、国産ウィスキーの評価も大きく変わってきている。今や、
ジャパニーズ・ウィスキーといえば、毎年のように世界大会で優秀賞
を獲得する位置にあり、スコッチやバーボンと並んで、コクのある
うまいウィスキーとして評価がある。「響」や「山崎」がそれだ。
日本人の、ものを極めようとする職人技と、こだわることによって
生まれる製品というのは本当に素晴らしいものだと思う。
そして、ぼくの個人的な酒飲みの嗜好は、結局のところ、乙類焼酎に
定まった。夏は氷に麦茶やトマトジュースなどで割り、冬はもっぱら
お湯で割って飲んでいる。
(2013年12月)


石の3 最初に戻る