石の2 蔵王山県境事件…山形の首領(ドン)


ドン1 仙台から山形に至る道として、蔵王エコーラインという観光山岳道路がある。
東北で標高が1800mなので、11月から翌年の4月までは雪に埋もれるが、
秋には紅葉が見事で渋滞が出来るくらいに賑わう。
山形側に下るとすぐに、広い駐車場があり、そこから山頂に向かって観光リフト
がある。ところが、その近くにもう一つ、廃墟になったリフト施設があり、看板が
あって、何やら恨み言が書いてある。何あれ?と優子に聞いたら
「なんか県境を巡って宮城県と山形県とでイザコザがあったみたいよ」
というばかりで、両県の人もあまり詳しくは知らないようである。

ところが先日、図書館で「小説・蔵王県境事件」という本があったので、
興味をそそられて読んでみると、意外な事件が浮かび上がってきた。
エコーラインは1962年に開通したのだが、それに伴って、山頂までの
観光リフトを営業しようと、山形市の2社が同時に手を挙げたという。
中小の「北都開発」と、最大手の「山形交通」である。
最初に山形県に申請をしたのは、北都開発である。しかし許可はなかなか
降りない。そうこうしている間に、山形交通が宮城県に申請を出すとすんなり
許可が降りた。しかし、そのリフトは山形県側に食い込んでいる。
北都開発が、それはおかしいではないかと山形県に文句を言うと、いや
そこは宮城県領だという。実は山形の林野庁が山形交通に有利になる
ように、県境の標識を人為的に変えていたのである。

北都開発が裁判に訴えた結果、林野庁課長の不正が認められて有罪と
なったが、県境に関しては山形県側の上山市が削られて損をし、宮城県
側の七ヶ宿町が得をする形になったまま。そのために両町が険悪になり、
マスコミでは両町のケンカとして伝えられる形となったらしい。が、実際は、
ドン2 そこまでして山形県が山形交通に便宜を働いた結果だったのである。
北都開発もその後、申請通りのリフトの営業を始めたが、山形交通から
様々な妨害を受けて営業を閉めざるを得なくなり、やがて倒産したという。

そういう企業戦争は普通のことであるが、驚くべきは、山形県における
山形新聞の社主だった服部芳雄(よしお)という独裁者の存在である。
2001年に故人となったが、それまで山形県では、服部天皇と呼ばれ、
山形県知事や山形市長などは、彼の番頭や丁稚のようだったという。
山形新聞の下に、山形放送のテレビとラジオも従え、山形交通も
全て支配していたので、山形県における経済界の大元締めであり、
誰も逆らえない存在だったという。まるで北朝鮮のようである。
地方には、時々、そういう存在がある。例えば、新潟では、
田中角栄の越後産業グループがそうである。誰も文句を言えない。
だから、その娘の田中真紀子が、あれだけ尊大になれたのである。

昭和時代における山形の、服部芳雄の独裁権力の酷さについては、
1985年に「朝日ジャーナル」が山形の首領(ドン)として特集を組んだ
ことがある。すると山形では、その日の内に完売したという。どうも
グループが買占めに走ったようである。そこで、朝日ジャーナルでは、
「続・山形の首領」「続々・山形の首領」と特集を組んだが、それも
山形では即日完売したという。当時、角川映画で「野生の証明」という
映画が大ヒットしたが、その地方権力者のモデルが彼だといわれる。
ドン3 また、山形市の伝統的な祭りは、最上義光を讃えた「義光祭」だったが
服部が「あんなもんでは客を呼べない」と、花笠祭りに変えたという。
そして、大手スーパーや外食チェーンが入ってくるのも妨害したので、
マクドナルドがなかなか出店できず、山形の高校の修学旅行では、
県外に行ってマクドナルドで食事をするのが憧れだったという。
山形にマクドナルドが進出したのは、ソビエト連邦よりも後である。

ただ、地方新聞というのは、時にすさまじい偏向になることがある
最近で、そのいい事例が、沖縄の新聞である。2紙共ものすごい
左翼偏向である。反米であり、反阿部政権であり、親中国である。
その紙面は阿部政権を「超右翼」と言っているが、どちらかといえば、
彼らの方が「超々左翼」である。米軍基地の辺野古移転を、サンゴが
壊れるだのどうのと騒いで反対しているが、もし、中国がやってきて
沖縄を占領したら、サンゴなんて全部根こそぎ持っていっていかれて
売りさばかれること必定である。どちらがいいかの選択である。

山形の場合は思想に関係なく、昭和の金儲けに邁進していた時代の
地方権力者の話であるが、服部天皇はテレビで当時放送されていた、
藤子不二雄の人気アニメ「忍者ハットリくん」を観て、名前を呼び捨てに
されるのが気にくわなかったのか、山形県内では放送禁止にしたそうで
ある。まるでお笑いだが、自然豊かでノンビリとした山形で、そういうこと
が起こっていたということ自体がウソみたいな話である。
(2015年4月)

…2016年9月には、北都開発のリフトは、全て跡形もなく撤去されて
 いた。「撤去には1千万円かかったらしいよ、いったい誰がお金を出した
 んだろうね?」と関係者は語っていた。


石の3 最初に戻る