石の2 山形・古屋敷村…廃屋の魅力


古屋敷1 山形県の上山市の山沿いに、古屋敷村というのがある。
萱葺き屋根が多く残る小さな集落である。
目の前のアスファルト道路は、しばらく進むと、
山の中に消えてしまうので、取り残された里である。
過疎化がすすんで、廃墟のようになっている。
廃墟ファンが見たら、「さびれ方がとても良い」と、
その同好の友人にメールを書くと思う。

このうらぶれた里が、ある時、注目を集めたことがある。
昭和56年頃に小川紳介という映画監督が、そこを舞台に、
日本の古い農村の姿を、社会問題を絡めながら、
「ニッポン古屋敷村」という題名で、ドキュメンタリーに撮った。
観た人によると、長時間のフィルムで、かなり退屈であるという。
ところが、ベルリン映画祭に出品すると、賞をもらった。

最近では、小栗康平という映画監督が、
「死の棘(とげ)」という作品のワンシーンをここで撮った。
松坂慶子がまるっきりのスッピンで、岸部一徳の妻を演じた
ものすごい地味な映画だったが、
これも、カンヌ映画祭でグランプリを獲得した。

その後は朽ち果てる一方だったが、それを惜しいと思ったか、
地元の有名旅館「古窯(こよう)」が、保存に乗り出した。
古民家の中を、古民具資料館にしたり、記念館にした。
ぼくらが最初に行ったのは、その頃である。
古屋敷2 ただ、駐車場は舗装されておらず、
入り口の古民家には、管理人が一人いるだけで、
注文されれば蕎麦を出し、お茶を出していたが、
観光客はほとんどおらず、どうも本気で客を呼ぼうという
感じはあまりしなかった。

案の定、その後、旅館は経営から手を引いてしまった。
するとどうなったか?という興味もあって、数年後、
再び行ってみた。すると、
管理人が蕎麦を出していた民家は、見事に廃れていた。
そして、資料館や記念館になっていた民家も同じだった。
萱葺き屋根には、緑の雑草が生え、裏戸は破れ、
軒下も崩れかかっていた。ほんとの廃屋になっていた。

これはいいぞと、ぼくは何枚も写真を撮ったのだが、
意外にきれいに写っている。まだまだ、廃屋化が足りんと思う。
この先また数年したら、もっと、しみじみとした立派な
廃屋になるんじゃなかろうか。楽しみである。
ここの廃屋群をグッと引き立てているのは、側溝に流れている
水がとても透明できれいなことである。
実際、この集落の先の林を抜けると、岩魚の養魚池がいくつも
あって、水量が豊富で、キラキラ輝いている。
蔵王の雪解け水なのである。

道は先で途切れていて、通る車もほとんどいないので、
古屋敷3 とても良いハイキングコースなのではなかろうか。
集落の先にも、一軒、崩れかけている民家が道の脇にあった。
そういう廃屋を見ると、ああ、いいなあと思う。
ぼくにも、廃墟ファンの資格があるのかもしれない。
そういう廃墟ファンにとって、日本で横綱格を誇っているのが、
長崎の軍艦島である。
「軍艦島オデッセイ」
世界遺産に立候補しているというから、格が違う。
実際どうだ、上のサイトの立派さは…。
ただ、世界遺産になるには、その条件の一つに、
「手厚く保護されていること」という一項目があるので、
荒れ果てただけの軍艦島は当分、無理かもしれない。

それにしても、災害で崩れたのでなくて、
ただ人が住んでいないというだけで、民家はこうも
簡単に廃れてゆくのだ。とはいっても、その廃れ方には
なにか風情がある。雨、風、雪で少しづつ痛み、
どちらかというと、自然にゆっくり帰ってゆくのだ。
山の中だから、雑草の浸入も早く、むしろ古民家は、
雑草に、おいでおいでと言っているようにも思える。
なんか、いいのである。


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