石の2 「ジャパンガイド」が素晴らしい

ガイド1 海外から日本を訪れる外国人が、日本に関する情報源として最も
利用している本が「ロンリープラネット」だというのは有名である。
テレビ東京で人気のテレビ番組「Youは何しに日本へ」を見ていると、
たいていの外国からの訪問客が、この本を抱えている。
しかし、ネット上では、「ジャパンガイド」を参考にしているという人
も多い。日本人女性と結婚したスイス人のステファン・シャウエッカ
ーさんが、立ち上げたサイトであり、今では世界中から160万人の
ユーザーが利用しているという。こちらは、毎日更新なので、その日
その日の、生の情報がわかることが貴重である。

例えば、日本の桜の花見を目的に訪日する人が多いのだが、桜の
開花は、せいぜい一週間であり、それが日本中で南から北に移って
ゆく。その日どこが満開かの情報は本では無理だが、ジャパンガイド
ならそれが可能だ。日本全国での桜の開花情報を、きめ細かに伝え
ているので人気があるという。そのため、今ではスタッフも増えた。

その彼らが日本の現状を伝えることに燃えたのが、1911年の
東北大震災の時だったという。ステファンさんは群馬県在住で、
その時の揺れに関して、めったに揺れない群馬でこの揺れだから、
震源地は相当大変なことになっていると思ったという。そして、東北
の太平洋側の津波をテレビニュースの映像で見た時には絶句した
という。さらに、福島原発の事故である。

「ジャパンガイド」のサイトには、すぐに海外から、普段の2倍の質問
が寄せられたという。「日本に旅行に行っても大丈夫か?」などだ。
最初はなるべく多くの情報収集を続けるしかなかったが、そのうちに
ガイド2 海外の新聞には、とんでもない見出しが並んでいることに気付いた。
「日本全国の交通は壊滅した」「東京から人々は全て逃げ出した」と
いうもので、これには日本に住む外国人として、正しい情報を発信する
べきだという運命を感じたという。スイスの大使館からは、自国民には
帰国する特別便を用意したので、家族共々帰ればどうかと促されたと
いうが、あくまで日本に残って、正確な情報を発信することを選んだ
という。

毎日のように、「西日本への旅行は全く、問題はないです」「東京も
京都も全く安全である」と一生懸命発信し続けたという。
そして彼が特に心がけたのが、フクシマである。大地震と大津波の
映像はすごかったが、世界中がそれよりも驚いたのが、津波により、
福島原発が爆発を起こしたことであり、それによる放射能汚染である。
福島はその途端、「フクシマ」になったのであり、チェルノブイリと同じ
印象になったのである。フクシマは東京に近い関東地方にあり、
「東京には、もう人は住めない」という記事すら外国では出ていた。
休暇を使って、家族で観光旅行にチェルノブイリを選ぶ人はいない。
実際、ロンリープラネットは、翌年の出版本から、岩手、宮城、福島の
観光地の紹介を削ってしまった。これではもう、自分達が生の情報を
伝えるしかないと思ったという。ジャパンガイドのスタッフは、被災地を
ガイド3 小まめに歩いて周り、その様子を伝え続けたのである。
福島の会津も磐梯山も大丈夫であり、観光できると…。

そして、2013年には、日本を一ヵ月かけて旅行して「ジャパンガイド」
のウェブで生中継するというプロジェクトを立ち上げ、募集に応募して
きた100人の中から、二人の外国人を選んで、二人を日本列島の
北と南から同時に出発させ、中部地方で合流するというツアーを
行ったのである。そして、それを世界に配信すると、日本の現在が
とてもよくわかるという評判が立ち、被災地の様子も理解できるという
ことで、NHKやら全国放送でも取り上げられて、行く先々で、多くの
日本人の協力者も現れたという。この企画はこれからも、2年毎に
行っていくという。すばらしいことである。その活動が本にもなった。

「外国人だけが知っている美しい日本」
ステファン・シャウエッカー・大和書房
(2017年5月)


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