石の2 白川郷、そして五箇山

五箇山1 金沢のホテルに2泊3日の旅行をしたうちの2日目は、あらかじめ
金沢発で日帰りのバスツアーに申し込んでいた。世界文化遺産に
なった五箇山と白川郷の合掌造りの古民家群と、飛騨高山を巡る
「3つ星街道の旅」というものである。バスガイドがつく。金沢からは
1時間かかるのだが、五箇山は富山県、白川郷は岐阜県にある。
どちらも秘境と呼ばれるほどの山の中にある雪深い里なので、屋根
に積もる雪の圧力を逃がすために、ああいう鋭角の屋根になった。

そこに行くまでに、ぼくがまず感心したのが、途中の田園風景である。
富山県に入ったすぐの南砺(なんと)市の農村風景が素晴らしいのだ。
普通の農村というのは、田んぼが一面に広がり、農家もある程度
固まっているのが普通である。ところがこの地方は田んぼの中に農家
が一軒一軒、別れて存在するのである。5月の水を張った今の時期
には、それぞれの農家が水面に浮いているように見える。こういう形態を
「散居村(さんきょそん)」という。
日本中にあるが、ぼくらが以前に見たのは、山形県の飯豊町でだった。
ガイドさんの話によると、ここが前田家の領地だった頃、幕府からの租税
を少なくするために、こういう風にしたのだという。田んぼがまとまっていれ
ば計りやすいが、分散していると計りにくく、ゴマかし易いというのだ。
五箇山3 関西系の人は話を盛るので本当かどうかわからないが、なるほどと思う。

そして、その農家の一軒一軒が幾つもの倉庫や建物を備えているのが、
実に立派で、いかにも裕福に思える。この地方の農家はみんな金持ち
なのなのだろうか?と思ったが、後で調べてみると、北陸地方というのは、
日本全国の中でも、持ち家率が非常に高く、家の面積も広く、大家族が
とても多いのである。当然ながら、家も大きくなるのである。

そしてもう一つ、不思議に思ったのは金沢市内はもちろん、富山に至る
農村でも、多くの屋敷の瓦がどこも、黒くピカピカに光っていることだ。
屋根瓦というのは日本中のほとんどが、いぶし銀と言われる風合いに
なっているが、北陸地方だけは粘土で瓦を焼く時に、釉薬を塗って焼いて
仕上げている。これは北陸地方独特の趣向であって、雪を溶かしやすく、
滑り易くするためだという。

五箇山2 さて、白川郷に比べて五箇山集落というのはやや地味であるが、ツアー
ではだいたい最初に、村上家という大きな民家で、そこの老齢の御主人
による歴史の説明と、「こきりこ節」の演舞というのがある。音楽はテープ
で流して踊ってくれるのだが、正直言って踊りが長くて退屈である。ただ
不思議なのは、このメロディーはよく知っているのである。多分何回も
聞いている。しかしどこで?すると妻が音楽の教科書に譜面があったと
いう。そこで後で調べてみると、こきりこ節というのは、日本最古の民謡
なのだという。それも、大化の改新の頃から歌われているという。すごい。
そしてYouTubeには、この土地の高校生が、自分達で楽器を演奏して、
踊っている動画がある。しかも若いだけに動きが良くて遥かに素晴らしい。
どちらかといえば、こちらの方が見たかった。

それにしても、なぜこんなド田舎の土地の民謡が、日本最古の民謡として
残っているのだろうか?実はこの飛騨地方の人々は、古代から木材を切
って運んで、平城京や平安京に供給する仕事に従事していたのである。
その上で木材を加工して建築にも携わり、彫刻までやったという。つまり、
この山奥の飛騨人達が、初期の宮大工になったのである。それによって
彼らが歌う「こきりこ節」が日本最古の民謡になっているのである。

五箇山4 そしてついに白川郷に行く。合掌造りの里である。世界遺産である。
昔は違っただろうが、今はもう駐車場も整備されていて大型バスがたくさん
駐車できるようになっている一等の観光地である。駐車場から集落に
入る時に、庄川にかかるコンクリート製の吊り橋を必ず渡るが、その河原
の風景が、長野の上高地の河童橋付近の梓川によく似ている。ここも
外国人観光客が大半の観光地になっていた。ぼくはもっと田舎の鄙びた
感じをイメージしていて、田んぼのあぜ道でも歩くのかと思っていたが、
実際は道路もよく舗装されていて、映画村の中を歩くのに近い感じである。

食事は民家レストランで、ビールと共に、朴葉味噌の飛騨肉を焼いて食
べたが、白川郷には民宿を兼ねている合掌造りの家もあり、そういう家に
泊まると、囲炉裏でヤマメを焼いたり、朴葉味噌の食事が主なのだろう。
ぼくはごめんだが、外国人観光客の中にはそういうのを求めて来る人も
いるのだろう。それにしても、いつかは行きたいと思っていた白川郷である。
美しい田園であり、歩いていても楽しかったが、これっきりでいいと思う。
とにかくここも、中国人、ベトナム人、白人の観光客で満ち溢れている。
と不満のように言いつつも、実はぼくはそれを眺めて楽しんでいる。
(2019年5月)

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