石の2 白菜の日本での発祥地は仙台である


ハクサイ1 いつも行っている太白区の図書館が、東北大震災のせいで
少し傷が出来ていて、それを補修するために2カ月あまり閉館と
なったので、少し遠くの若林区の図書館に出かけたことがあった。
すると、図書館の前に小さな公園があり、「仙台養種園跡」という
碑があって、日本における白菜発祥の地だという説明がある。
どういうことなのかと詳しく読んでみると、
白菜というのは原産地は中国大陸であり、日清日露戦争で大陸に
渡った軍人が「とてもおいしい白菜という野菜があるぞ」ということで
持ち帰ったものなんだそうだ。ところが、日本に持ち帰り栽培してみた
ものの、これがなかなか結球しなかったという。アブラナ科の、菜の花と
同じ種類なのだが、葉っぱが伸びるだけで、なかなか丸くならないのである。
これは、やたら近種と交雑しやすいという性質にあるらしいことがわかった。

そこで、仙台の農業研究所だった養種園では考えた末に、チョウチョが
飛んで来て花粉をつけないように、松島湾内の離れ島である「馬放島」で、
ハクサイ2 隔離栽培を行い、やっと結球する種を確立したという。
それを仙台郊外の農家で栽培したのが仙台白菜といって、一時は、
関東に大々的に流通させて、日本一の白菜産地となったという。
やがて後に、加賀と愛知でも結球種の栽培に成功して普及し、
現在では、日本一の白菜の生産地は茨城県になっているという。

つまり、明治時代以前には白菜は日本に存在しなかったのである。
白菜というと、日本のあらゆる鍋物につきものであり、漬物としても
タクワンの次に日本的なものだと思っていたのだが、意外に
日本での歴史は浅いのである。

ちなみに白菜を英語で言うと、チャイニーズキャベツである。
キャベツの方はヨーロッパで古くから栽培されていた野菜であるが、
こちらも日本では昭和になってからやっと出回った野菜である。
ただ、その原種は「ケール」と言って、テレビで盛んに宣伝している、
健康にものすごく良い野菜ジュースである「青汁」の原材料である。
ハクサイ3 一杯飲んで「まずい!もう一杯」とCMでやっていたあれである。

ぼくがエコロジーや自然農法の勉強をしていた福岡時代、仲間達と
熊本へキャンプに行った時、たまたま、ケールの畑を見学することがあり、
キャベツに似ているので、その葉っぱを何気なしに口に入れたことが
あるのだが、一口食べて思わず顔をゆがめてしまった。
とにかく、強烈に生臭いのである。野菜臭い、生臭い。この世にこれほど
不味い味があるだろうかと思うほどに生臭いのだ。
このケールはそのままでは誰も絶対食べないだろうけれど、
ヨーロッパでは長い年月の間にいろいろに品種改良されて、最後は、
おいしいキャベツになり、ブロッコリーになりカリフラワーになった。
ウソのような見事な変身である。
とにかく、白菜もキャベツも、日本では昭和になってからやっと
食べられるようになった野菜である。

では江戸時代以前からあった日本古来の野菜は何かというと、
とにかく大根が代表であり、他には、蕪(かぶ)、キュウリ、茄子など
漬け物になっている京野菜の多くが明治時代以前のものである。
イモ類では、山芋と里芋である。山に勝手に生える方が自然薯とも
呼ばれる山芋であり、畑に植えて育てるのが里芋である。
芥川龍之介の短編小説「芋粥」の中に出てくる平安時代を舞台に
ハクサイ4 した物語での芋粥の芋は山芋であり、やはり平安時代からの風習と
しての十五夜の月見に備える丸い団子が、元々は里芋だった。

では、ジャガイモや、サツマイモはどうかというと、中南米原産の
これらは、中南米を占領したスペイン人やポルトガル人によって
ヨーロッパに移植され、それがさらに東南アジアを経由して、日本に
持ち込まれることになった。ジャガイモは、インドネシアのジャカルタから
経由して入ったのでジャガイモ、またサツマイモは東南アジアから沖縄、
鹿児島を経てきたのでサツマイモと呼ばれるようになった。
同じく中南米原産のカボチャも、カンボジア経由で渡ってきたので
カボチャと呼ばれた。いずれも、普及したのは江戸時代末期から
明治時代にかけてである。

また洋食になくてはならないタマネギはヨーロッパ原産だが、これも
日本に入ったのは明治時代である。そして洋風野菜の代表とも考え
られるトマトは、やはり中南米原産であるが、その赤い色から
18世紀のイタリアですら不気味と考えられて敬遠されてきた野菜で
ハクサイ6 であり、ヨーロッパで食べられるようになり、日本でも食べられるよう
になったのは、ほんとの昭和の戦後である。

そういえば、アスパラガスというのは、極めて最近の野菜であるが、
ぼくらの世代が知っているアスパラといえば、細長い缶詰に入った
ホワイトアスパラのみであり、たいへん高級な野菜だった。それが、
1990年代のバブル期に、グリーンアスパラというのが、いきなり出てきて
人気になり、今では園芸品種になっている。
生野菜のサラダにかける様々なドレッシングというのが出て来たのも、
この頃である。それ以前は、日本にはマヨネーズしかなかった。

鍋物に入れるエノキダケというのが出てきたのも、この頃であり、
最近ではエリンギという新種のきのこも出てきた。
新種の野菜は、これからも、まだまだ出てきそうである。
(2012年)


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