2の石 私の妻は左利き


 仙台郊外の、大東岳に山歩きをした時のことだ、
左利き2  途中で、いくつか危なっかしい崖道を歩いた。
 なかには、斜めの崖に足をかける幅数センチくらい
 しかなく、滑ったら数十メートル下に、ハイさよなら
 という場所もあった。ぼくは左の傾斜にすがりつくように
 して慎重に一歩一歩渡り終え、後ろの優子を心配して
 振り返ったのだが、なんと彼女は真っ直ぐな姿勢で
 スタスタと歩いてきて、へたり込んでいるぼくの後ろに
 「何?」という感じで立っている。

 彼女の説明によると、左利きのせいで、
 右が崖というのは、ものすごく怖いが、
 左が崖というのは、ちっとも怖くないらしい。
  そういえば、ぼくは右利きであるが、バイクや車の
  運転や、スキーのターンでも、左側に曲がるのは、
  平気であるが、右へのターンは苦手である。
  どうも、優子はその逆らしい。

  ただ、、困るのは、
 彼女の場合、左と右を言い間違うことである。
 「それを左に置いて」と言いながら、右を指していることが多い。
 左利きというのは、こういうものであろうか?

  一番困るのは、ドライブする時である。
 ぼくが運転する場合、彼女が助手席でナビゲーション
運転  するのであるが、右と左がめちゃくちゃになる。
 「次、右ね」と言って左を指すわ、「次、左」と言って
 右を指すわ、こちらはパニックになる。
 それを指摘して、気をつけろと言うが、
 いくら言っても直らない。
 何年経っても治らない。
 結局、彼女にナビしてもらう場合、指先だけで
 やってもらうことにした。右左は言うなと。
 つまり、指差して「こっち」とだけ言ってもらうのだ。
 たまに、同乗者があると、ものすごく幼児っぽく
 見えるらしいが、しかたがない。

 山歩きに関してだが、福岡と仙台では、えらく違う。
クマ  福岡の山は高くても、せいぜい千メートル。
 頂上からは、眼下に海も見えるし、町も見える。
 遭難の危険などほとんどない。
  ところが、東北は山が深い。遭難する人も多い。
   道に迷うと大変である。日暮れも1時間は早い。
  さらに怖いのはクマである。
 九州にはクマはいないが、こちらでは、襲われたの
 戦ったのと、地元ニュースでは、たいした騒ぎである。
 山の国に来たのに、かえって、山歩きをすることが、
 少なくなってしまった。

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