石の2 日和山(ひよりやま)


日和山1 ぼくは仙台に引っ越して、次々と4つの日和山に出会うことになった。
まず最初は、仙台市内の日和山である。これはちょっとビックリする。
なにしろ標高が6mしかない。蒲生干潟という所にあり、階段を14段
登れば頂上である。笑ってしまった。これは明治から大正にかけて、
人工的に築山したものだという。漁師が高台に登って、気候や沖の
波の具合を見るためである。仙台市は東半分が海に向かって延々と
広い平野になっていて、丘も小山もない。だから、遠くの海を見るため
に必要にかられて、海辺近くに築山したのである。

そして、この日和山は、日本で一番低い山として国土地理院に認定され
ていた。そのため、おもしろがって来る人も多く、初日の出を見る名所、
あるいは目の前の蒲生干潟に集まる海鳥のバードウオッチングの名所
日和山2 でもあった。ところが平成に入ると、大阪湾にある標高4mの天保山と
いうのが国土地理院に認定されたため、仙台の方は、全国で2番目に
格下げになり、そのため看板には「元祖」と一筆加えられることになった。

その後、そこから近くの名取市・閖上(ゆりあげ)にもう一つ、日和山が
あることを知った。こちらも大正年間に造成されたものであり、6mちょっと
の高さなのだが、ぼくが来た頃には、街の雑踏の中に埋もれており、
たいして目立つものではなかった。上に小さな神社があり、樹木に
囲まれて、ひっそりとした存在だった。

次に知ったのが、宮城県石巻市にある日和山だ。こちらは、標高60m
の、それなりに立派な小山であり、石巻市街と石巻湾を見下ろす位置
にあり、つつじの名所として公園になっている。
そして、4つ目に知ったのが、日本海に面する山形県の酒田市にある
日和山公園である。こちらは、酒田市の海を見渡す高台にあり広い敷地
を持つ、市民が憩う桜の名所である。
改めて、日和山というのは、海を見る見張り台なのだと知った。

そして、2011年の3月11日に東北大地震と、大津波が起こった。
山形の酒井市は関係なかったが、宮城県は大変なことになった。
石巻市の沿岸部が津波に襲われた時、それから逃げた人々がみんな
駆け上ったのが、高台である日和山公園だった。運良く、そこに駈け
上がれた人々が、目の前で流される家々を眺めて悲鳴を上げた。
YouTubeで石巻の津波を高台から撮影している場所がここである。

そして、名取市・閖上の日和山はそれより悲惨だった。当日のNHKの
津波の中継で、平野に黒い津波が流れ込んで来るのを観た人は多い
と思うが、あの場所が閖上地区である。翌日の多くの新聞や雑誌の
第一面の写真にもなった。太平洋の長い砂浜の手前に位置する
港町であり、海辺との間にはわずかな松林しかなかったので、
津波はもろに町に襲いかかった。郵便局も銀行もある町だったが、
日和山5 その全てが流されて消えてしまった。今では、その更地になった所に
日和山がポツンとえらく目立つ。その日和山も波に覆われ、神社も
樹木も流されてハゲ山になったが、そこが閖上の記念碑になっている。

蒲生干潟にあった日和山はどうなったかというと、そこも全て大波を
かぶってしまって、干潟は消滅し、日和山も流され消えてしまった。
と思いきや、実はわずかばかりの隆起が残り、それが3mであるが、
この度、国土地理院に認定されることになって、大阪の天保山を
抜いて再び、日本一の低い山として返り咲いたのである。
めでたしめでたしと言えばいいのか、とりあえず何でもいいから。
復興のために喜んでおこう。蒲生干潟の生物も少しずつ元に
戻りつつあるという。
(2014年9月)

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