石の4 初めての地吹雪…1998,1月


八甲田2 何回目かのスキー、えぼしスキー場でよちよち滑っていた時、
広いゲレンデで、風が強いなあとは思っていたが、突然、
ものすごい突風が吹いてきた。雪は多少降っていたものの、
上から降る雪よりも、雪面から巻き上げられる雪がすごい。
あっという間に、視界が真っ白。何も見えなくなった。
危ないから動けない。それに顔が痛くて冷たい。
ああ、雪というのは、地面から吹き上げられる場合もすごい
ものだと初めて知った。それが、地吹雪だった。

もし、雪がたくさん降って突風が伴う場合、吹雪と地吹雪が
混ざり合うわけで、これはすごいことになるだろうなと思う。
 昔観た、高倉健主演の映画「八甲田」を思い出してビデオを
借りてきて改めて観た。なるほど、なるほど、と唸りながら
何度もうなづいた。そうだったのかと思う。

それ以来、ものすごい吹雪の世界を一度でいいから体験したい
安全に体験したい、と思っていたら、そのチャンスが来た。
優子がかねてから、東北で最大規模である、岩手県の
「安比(あっぴ)高原スキー場」に行ってみたいと言っていて、
それをかなえるべく高速バスを予約したのだが、その当日に、
八甲田3 仙台で朝から雪がチラホラと降り始めたのだ。

降雪の最盛期の1月、2月に雪の少ない仙台でチラホラする場合、
仙台より北の東北では、すごい雪になっているのが普通である。
案の定、バスの乗客は3人だけで、運転手から、
「高速が雪で通行止めになっているので国道でゆく。
相当の渋滞になると思うが、いいか?」と聞かれた。
ぼくらは、バスからすごい雪景色を見るのが目的なので、
「いいです、いいです。九州人ですから」と乗り込んだ。
雪道で自分の車で事故を起こしてはたまらないが、
バスに乗っていて事故になった場合は、
「おめえの責任だろうが!」と居直ることができるもんね。
ほとんど貸切状態。座席を回転して、足を伸ばして、雪見酒。
仙台より北は、町が雪に埋もれていて、吹雪いていて、すごかった。
ただただ、白い世界を走る。

安比高原スキー場は積雪3メートル。午前10時に着くはずが、
八甲田4 午後2時に着いた。帰りは午後5時なので、遊べる時間は3時間。
吹雪のせいで、ゴンドラもリフトも全て止まっていた。
大きなホテルと、レストランがあるのだが、人はほとんどいなくて、
泊まり客も、外に出ては、すぐに雪ダルマになって戻ってくる。
ぼくらも、他の施設を見物しようと外に出るのだが、駐車場を
横断するだけでも遭難するかと思うほどの吹雪である。ほんとに
数メートル歩くだけでも大変なのだ。目の前が真っ白で何も
見えない。いわゆる、ホワイトアウトというやつである。

 映画「八甲田」では、青森連隊があと2キロがわからずに
2百名が凍死する。たった2キロだ。長崎なら駅前から中央橋、
福岡なら、大濠公園から天神まで。その距離をたどり着けずに
屈強な戦士2百名が雪のために死ぬ。これは実話なのだ。
こういうことって、九州にいたら、ほとんど実感できないが、
ここに来て体験して、なるほどなあとわかる。
帰ってきてから、また「八甲田」をレンタルビデオで借りてきて
それを観ながら、また、しつこく、なるほど!と激しくうなづいた。

ちなみに、青森県・津軽半島の最北の町「金木町」では、
八甲田5 数年前から、「地吹雪体験ツアー」という、町起こし企画を
始めたが、これが東京や西日本の客に大人気で、年ごとに
参加客が増えているという。とても、わかる。
もちろん、かんじきを履いての地吹雪行進の後には、
囲炉裏端での、温かい鍋が待っているわけで、これがないと、
ほんとの八甲田になってしまう。
西から交通費と参加費と宿泊費を払って、遠路はるばる
吹雪きを体験しにやってくるというのは、北国の人には
わかりづらいだろうけど、西の人間にとっては、未知の体験
であり、それだけで、映画を観るにしろ、小説を読むにしろ、
それらの中身がぐっと身近になるのである。




八甲田6

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