2石 潮干狩りはあきらめた、そのかわりスキーだ


あさり

 福岡時代に最高に楽しかったレジャーのひとつが
 潮干狩りである。アサリ採り。
 信じられないだろうが、どこでも無料である。
 建前は、漁業組合が500円を取ることに
 なっているが、実際は、広い博多内海で、
 それほど厳しく取り立てることはない。
 とにかく、どこでも採れる。
 福岡ドームの前の人工海浜ですら、
 袋いっぱい採れる。
  ぼくらは、4月になると、能古島や糸島半島で、
 いくらでも採った。家に持って帰って、砂抜きする
 のに、量が多い時には、バスタブを使ったほどだ。

  それがこちらに来ると、入り口があって、千円の
 入場料を取る。アサリも
 朝に事前に砂浜にバラまかれたもの。
 貝を掘って、キロ幾らでお金を払わなければ
 ならない。これでは、お買い物である。ため息が出た。
 潮干狩りの楽しみを、すっぱり、あきらめるしか
 なかった。潮干狩りに関しては、
スキー2  福岡が幸せ過ぎたのだ。

 そのかわり、こちらにはスキーの楽しみがある。
 スキーはやったことはないが、せっかく北国に来たの
 だから、スキーをやらない手はない。
  44才になって初めてのスキーである。
 快晴の日に、スキー場へ行ってみて、目がクラクラした。
 青い空に、白い雪。
 純白の上にいるだけで、晴れ舞台に立っている
 ような気がする。それに冷たい空気が、きれいである。

  さっそく、スキーセットをレンタルして、ゲレンデの
 下の方で、靴とスキー板を履く。
  こちら出身の優子は、鳴子小学校のころ、
 学校の授業でスキーの体験をしているので、少しは
 教えてくれる立場にあると思うのだが、
 「昔のスキー板や靴とはずいぶん違う」
 とブツブツつぶやいている。
  さて、どうやって滑るのかと思うまもなく、足をそろえたら
 滑りはじめた。ワオ!足が勝手に滑るのだから、身体は残る。
スキー5   すぐに後ろに転んだ。転ぶとなかなか起き上がれない。
 やっと起き上がっても、滑ってはすぐに転ぶ。優子は
 「足をハの字にして止まるのよ」と叫んで教えてくれるのだが、
 当の本人もやたらと転んでいる。
どうも、スキーというのは、滑る技術の前に、止まる技術
 のものらしい。
 初めて、スキーリフトに乗ったが、着地点では、二人とも
 転んでしまった。そこから、降りるのも大変だった。
 普通の人が10分くらいで滑り降りる距離を、1時間も
 かかってしまった。
 降りてから、坂を見上げて、ため息をついた。
 「もっと、ずっと初心者用のゲレンデがあるスキー場を
 さがしましょうね」と、妻が言った。
 1997年の初春だった。

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