石の2 はじめての金沢

金沢1 初めて金沢に観光で行ってきた。北陸とはそれまで縁がなかったので、
金沢が石川県の県庁所在地であることを忘れていた。九州人なので、
富山と金沢がごっちゃになっている。北陸人には怒られそうである。
仙台空港から1時間で小松空港。小松市には勧進帳で有名な「安宅の
関」があるので、空港には弁慶に関連するグッズが多い。それと共に
建設機械のミニグッズもあるのは、世界のコマツの発祥の地だからだ。
そういうことにいちいち、おもしろさを感じてしまう。

小松空港からバスに乗ること40分で金沢駅に着く。人口46万人なのに
駅が大きくて実に立派である。特に鼓門(つづみもん)という建造物が
巨大であり、観光客は必ずこれをバックにして記念写真を撮る。
金沢観光であるが、人気スポットはほとんどが駅から数キロメートル以内
にあり、バスで回りやすくなっている。ほとんどの人が最初に行くのは
「近江町市場」である。北陸地方の海産物がずらりと揃う。海鮮丼の店が
多いが、海産物を店先で焼いて立ち喰いできる店も多い。どうも、外国人
というのは立ち喰いが好きなようで、それに対応しているらしい。しかし、
日本人の多くは、食べる時ぐらいは座りたいと思うのではなかろうか。

北陸の海の幸といえば、ズワイガニを筆頭に、甘エビ、ホタルイカなどが
有名だが、最近になって俄然注目されているのが「のど黒」という魚である。
なぜかというと金沢出身の有名人が「金沢に帰ったら、まずあれが食べたい」
とテレビで繰り返し言ったせいらしい。そのために、金沢のみやげ物屋には
金沢2 のど黒と、もう一つの名物である「白エビ」の干し物や、せんべいなどの
加工品がやたらと多い。これはどこかで食べないといけないと思う。

さて金沢の観光スポットと言えば、兼六園、金沢城、そして昔の遊郭だった
「ひがし茶屋街」「にし茶屋街」そして、「長町武家屋敷跡」などである。
茶屋街に行けば、江戸時代からの街並みがあり、舞妓さんが歩いていて
も、おかしくない。ただ、今は外国人観光客があふれていて、原宿並みの
喧騒である。着物の若い女性を時々見かけて、おお!いいねと思って、
ついカメラを向けてしまうが、そのほとんどはアジア系の外国人である。
レンタル着物店というのがあり、2900円で着付けからやってくれる。
中国人がそこで着替えて町を歩くと、他の外国人から日本人だと勘違い
されて囲まれて撮影会になる。本人達もモデル気分で、とても嬉しいようだ。
ただ、中国人というのはやたらと声がデカい。どこでも通り一つ向うにまで
聞こえるくらいの声でしゃべり合う。しかし、同じ中国人でも、着物を着ると
若い女性は静かなしゃべり方になるというか、無口になるようである。

金沢に関する前もっての知識としては「弁当忘れても傘忘れるな」というの
があった。雨の日が多いらしいのだ。住むにはうっとうしくてイヤである。
長崎も「長崎は今日も雨だった」というヒット曲があるので、いかにも長崎が
雨が多いように見られているが、あれはウソである。
ただ、金沢の場合は本当のようである。金沢は秋から冬にかけて、雨と雪
が多い。冬には雷も多い。金沢といえば、前田利家の加賀百万石であるが
金沢3 天守閣が落雷で焼けてしまい、それ以来建造しなかったという。そして、
前田家は秀吉の親友だったので、徳川幕府になった時、すぐにでも改易
されて当然だったのだが、2代目などは母親を人質に差し出したりして、
徳川に反攻しないという姿勢に徹したので、前田家は幕末まで続いたので
ある。その3百年の間、金沢は美術工芸の技だけを磨いた。九谷焼やら、
加賀友禅、金箔塗りなどが有名である。観光スポットに行くと必ず、金箔を
かぶせたソフトクリームに行列が出来ていた。890円くらい。

金沢が観光地になった理由として大きいのは、空襲に合わなかったことで
ある。太平洋戦争で日本のほとんどの都市は、米軍の空襲によって焼かれ
たが、金沢は軍需工場がなかったので、攻撃を免れて昔の街並みが残った。
観光スポットではない市内をバスで走っていても、あちこちに江戸時代の
商家が残っていることに感心する。さらには昭和の街並みも多い。それだけ
で金沢はいつまでも一流の観光地になれるのだと思う。

そして金沢のグルメである。ぼくら夫婦は1日目には、金沢駅グルメ街に
ある、おでん居酒屋に入ったが、おでんの汁は薄味である。東京のおでん
の味に馴染んでいるぼくらにとっては、おいしくない。妻が言うにはセブン
イレブンの方がずっとおいしい。ぼくもそう思う。
そして、妻が期待を込めて注文したのが「フグの白子の炙り」である。という
のは、映画「おくりびと」の中で山崎努が酒を飲みつつ、本木雅弘に向かって、
「フグの白子ほど美味いものはないぞ」と網で焼きながら薦める場面をずっと
覚えていたのである。そして実際に注文して食べてみた。タラの白子に似て
いるが、味はずっと淡泊である。妻はかなりガッカリしていたようだ。

金沢4 金沢に来て、とにかく一度は行こうと決めていたのが「もりもり寿司」で
ある。回転寿司なのだが、とにかく超人気店である。市内に何店舗も
あるが、とにかく並ぶのである。普通で50人待ちだという。ぼくらは
普段はそういうことは全くしないが、今回だけは覚悟して並んだ。
金沢駅フォーラス内の店で、夕方に行ってみると38人待ちだった。
一応、ソファに座っていられる。1時間半かかった。やっとカウンター
に座って、お酒と共に注文したのが、のど黒とガスエビの寿司。とにかく
こちら独特のモノを食べまくった。どれもそれなりにおいしかった。
「もりもり寿司」というのは、並ぶのを覚悟しても、おススメである。

ちなみに、金沢において一番の中心街は「香林坊」であり、昔ながらの
百貨店も、高級ファッションブランドも全てそこに集まっている。バスの
経路もそこを必ず経由する。金沢市民が一番多くいるのも、そこである。
金沢で飲みに行こうとするなら、たいていここに行くという。昼間にしばらく、
そこのバス停前のベンチで5月の風に吹かれて人々を眺めていた。
バス停の前に座れる場所が多く、座っている市民もとても多い。ここに
いると、金沢の人々の全てがわかるような気がした。
(2019年5月)

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