石の2 おいしいカニはどこにあるのか?


カニ1 カニというのは、けっこう当たり外れの大きい食材である。
スーパーで買ってきて食べても、カニ料理専門店に行って
食べても、いつも必ずしもおいしいとは限らない。
どうなっとるのかと思う。

ぼくは九州人なので東京に出るまではワタリガニしか食べたことが
なかった。父が魚市場関係者だったので、しょっちゅう食べていて、
たいへんおいしかったものだが、多分それは新鮮だったからだろう。
身も少なく、味も淡泊なのだが、そのミルキーな味を
「日本一おいしいカニ」と絶賛して、こよなく愛した人として、
食通であり、映画俳優であり、テレビの「くいしん坊!ばんざい」の
レポーターでもあった渡辺文雄さんみたいな人もいた。

しかし、東京に出て、北国のカニである、ズワイガニやタラバガニ、
毛ガニなどを初めて食べて、その濃厚な味にえらいビックリした。
「東京の人々はこんなうまいカニを食ってたんだ」と思ったのだ。
ところが、5年10年と経つうちに、必ずしもおいしいカニばかり売って
いるわけではないぞ、と気付くようになった。

カニ2 例えば、武蔵野に住んでいた頃のことだが、夕方に駅前にトラックで
ズワイガニを売りに来ていた業者がいて、ものすごく安いので、
通勤帰りに思わずつられて買ったのだが、いざ家でゆがいて食べてみると、
身がスカスカでちっともうまくない。後で聞いて知ったのだが、それは
産卵を終えた不味いズワイガニであり、漁業者が本来なら
捨てるものを、タダ同然で買い付け、それを安く売り回っていた
業者だったのである。

カニというのは、見た目ではわかりづらいため、そういう詐欺めいた
商売が横行する。バスツアーなどで、お土産にズワイガニを一匹
サービスでつけるなどというのは、そういうカスのことが多い。
また漁港の市場にバスツアーが行って、さあ買って下さいという。
場合、とても安い活きカニが売られていることがあるが、あれも同様である。
見た目は同じなのに、片や一万円で、片や千円である。
千円で売られているのが、どういう味かは、だいたい想像できようと
いうもんだ。

とにかく、カニのおいしさは新鮮さが一番である。
カニには漁期が決まっていて、その旬は冬である。
カニ3 その時期に漁港で水揚したばかりのものを、漁業関係者が目の前で
すぐにゆでてくれれば、これは間違いなく美味いはずである。

しかし収穫量が多いと、鮮度を保つには冷凍するしかない。
冷凍すれば当然ながら味が落ちる。そんなに獲るなよと言いたいが、
漁船としては大漁の方がうれしいに決まっている。
それに、冷凍すれば保存が利くし、遠距離にも運べるし、そのおかげで、
東京でも九州でも北海道のカニが食べられるのである。
その場合、多少は味が落ちようが文句はいえないのである。
文句があるなら北海道まで交通費を払って食べに来いと言われるのが
落ちである。だいたい、食べ物とはそういうものである。

最近は全国に、カニ専門店というのがあるが、カニが冬のものである
以上、夏は冷凍ものを使わなければやっていけない。そして、
カニの冷凍ものといえば、漁港で浜ゆでしたものを冷凍したものと、
活きカニをそのまま冷凍したものとがある。スーパーで売っているのは
浜ゆでしたものが多いが、カニ料理専門店では、浜ゆでしたものを
そのまま解凍して出したんでは、料理屋ではなくなるので当然ながら
活きガニにこだわっている。
しかし、生け簀に長く置いたカニは、見た目は新鮮そうに見えても、
ろくな餌もなく囲って置いたわけであり、かなり弱っている。それを
カニ4 目の前で、網ですくって調理してくれても、おいしいわけがない。

では、カニ料理専門店では、何をメインにしているかというと、
「かにしゃぶ」だという。カニのしゃぶしゃぶである。旬の冬なら
活きカニで当然おいしいが、夏でもしゃぶしゃぶならば、冷凍の
ものを使っても、それほど遜色のない味になるという。

しかし、やはりカニの一番おいしい食べ方はゆでガニである。
だから、ぼくとしては、この先、カニを食べる場合は、冬の旬
まで待ち、スーパーの冷凍モノではなく、町の老舗の魚屋か、
仙台駅前の仙台市場で売っている活きカニを買って自分で
ゆでるか、浜ゆでのものを買って食べることにしよう。
そして、仙台ならば毛ガニを食べることだ。
ズワイガニは富山か、若狭湾の近くに行くしかないし、
タラバガニなら北海道に行くしかない。
(2011年10月)


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