石の2 金華山の蛇(じゃ)踊り


金華山1 宮城県の北、牡鹿半島の沖合いに、金華山という島がある。
周囲26キロで、標高440mの尖った島だが、
ここに黄金神社というのがあり、ここに3年続けて参ると、
一生、お金に不自由しないと言われている。

しかし、確約、保障してくれるわけではない。
あたりまえか。でも、宮城県の観光名所であり、
野生の鹿がいて、観光客にエサをねだるというので、
妻に連れられて、過去に一回だけ行ったことがある。
そして、それだけのもんと思っていた。

ところが、少し気になることがあった。
毎年、7月末に黄金神社では、「竜神踊り」という祭りがあり、
HPの写真で見ると、長崎くんちの「蛇踊り」とそっくり
なのである。で、神社にメールで問い合わせてみると、
竜の本体は、長崎で作ってもらったもので、踊りも
長崎の「蛇踊り」に準じているというのである。
ほお!である。

金華山の竜神信仰と祭りは、長崎の成立よりも、
遥か昔だが、20数年前に竜神祭りを復活させた時、
長崎の「蛇踊り」をイベントとして、持ち込んだらしいのだ。
金華山2 長崎から遥かな北の、こんな所に「蛇踊り」が
いきなり、あるというのは本当に驚きである。

蛇踊りというのは、長崎くんちの中でも、
最も人気のある出し物で、実に迫力がある。
ぼくもいつぞや、久しぶりに、くんちの長崎に帰った時は、
蛇踊りがあちこちの町を流して回るのを、一日中、
くっついて回ったことがある。それほど、好きである。

蛇踊りについて、迫力がすごいと言ったが、
実は、この迫力は、その竜の舞いだけでは
成り立たない。バックの、シンバル、太鼓、ラッパなどの
中国風の音のリズムの方が、むしろ主役なのだ。
爆竹も含めて、それらの音にうっとりとする。

金華山の蛇踊りの写真を見た時、
音はどうなのだろう?とすぐ思った。
確かめてみたい、と思い募っていた。

2006年、7月30日の日曜日、晴れ。
ついに、その機会を得て、行くことにした。
石巻の北、女川(おながわ)までドライブして、
その港から、ぼくたちは高速船に乗った。
金華山まで30分。外洋に出ると、波が荒く、
白波蹴立てて、右に左に揺れて、まるでジェットコースター。
金華山3 客で船酔いを心配する人は、真ん中に寄って、
立ったままで、椅子の背もたれに、つかまっていた。
その場所が一番、揺れが少ないらしいのだ。
そんな中で、船内で流れるBGMは、なぜド演歌なのか?

金華山の港から、神社までは急坂である。
無料マイクロバスもあるが、ゆっくり歩いて20分。
振り返っては海を見ながら、神社に着くと、
たしかに、鹿がたむろしていて、さかんに観光客に
エサをねだる。鹿のエサも売っている。

鹿にエサをやって時間をつぶし、会場に向かうと、
狭い広場と桟敷席がある。観客の規模は、せいぜい、
50人くらいで、むしろ、ささやかな祭りである。
時間になって、遠くから太鼓と、ドラと、ラッパと、シンバル
金華山4 のリズムが聞こえてきた。
おお!あれは、まさしく、蛇踊りの音ではないか!
しかし、近づいて来るにつれ、
まてよ、何か微妙に違うぞ、と思う。

まず、ドラである。中国のドラはジャーンと鳴るのだが、
こちらでは持ち前のドラを採用したらしく、
ボコン、と鳴る。カクッとくる。

竜を動かす人の衣装は、長崎が中国服なのに対して、
こちらは、日本のハッピ姿なのが違うが、
動きは全く同じであり、見事な動きである。

ただ、やはりというか、全体の音が違った。
ラッパは、緩急をつけた竜の声を表わすべきだが、
こちらの宮司さんは、単純にプープーと、
吹き鳴らすだけである。シンバルも間がある。
そして、和太鼓では、音が柔らか過ぎる。
長崎とすっかり同じようにしろとは言わないが、
金華山5 あそこをこうしたら、すごい迫力が出るのになあ、と
長崎人としては、隔靴掻痒(かっかそうよう)なのである。

神社で鹿にエサをやっていた時に、後ろで、
「ほら、今のうちに早よせんね!」と、子供に
お母さんが言う長崎弁が聞こえていたので、
多分、宮城県在住の長崎人で、蛇踊りと聞いて、
懐かしさで、見に来た人もいるんだと思う。

そして多分、ぼくと同じように少し、カクッと
なったはずだが、それでも、想定内だった思う。
プチ長崎気分と、金華山そのものの観光と、
夏の暑さと海を、同じように楽しんだはずである。



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