石の2 金太郎の伝説


金太郎1 「まさかりかついだ金太郎♪」というのは、誰もが知っている
童話であり、伝説の主人公である。ストーリーとしては、箱根の
足柄山で、山姥に育てられた金太郎が、その地を通りかかった
源頼光という武将に見い出され、その部下になって、京都に行き、
大江山の鬼退治で有名な、渡辺綱(わたなべのつな)らと共に、
頼光の家来として、四天王と呼ばれるまでに出世したという話だ。
家来になってからは、坂田金時と名乗った。
その時から、箱根の足柄山が金時山になったのである。

そして、坂田金時は美男であり武術、馬術にすぐれていたため、
評判になり、京都でのアイドルだったと、複数の貴族の日記や文献
にある。ところが、九州で起こった乱を鎮めるために遠征した時、
途中の岡山で熱病を患い、19歳であっけなく死んでしまった。
金太郎2 そのため、金太郎の伝説は全国に23ヶ所もあるが、
東日本では金太郎としての伝説、西日本では坂田金時としての
伝説が多く、金時の墓は岡山に数か所あり、それより西には
金太郎の伝説はないという。

そして、不思議なことに、箱根から遠く離れた宮城県の村田町にも、
金太郎の伝説があるのである。ただし、こちらでは山姥の方が主人公
になっている。それによると、山姥は箱根の足柄山と村田町を
しょっちゅう行き来していて、息子の金太郎はもっぱら
村田町で育てたということになっている。おいおい、箱根と村田町
ではえらい距離があり過ぎるぞ。新幹線もない時代に、それはちと
無理なんじゃないの?と、その資料を眺めながら、村田町の資料館
で、傍らの妻に笑って言ったのである。

すると、横にいた作務衣を着た中年男性にいきなり怒鳴られた。
ぼくは最初、何事が起こったのかわからずキョトンとしていたが、
よくよく考えると、その人は「地方の伝承を馬鹿にするのか!」と
怒っていたらしいのだ。郷土愛なのだろう。わからないでもない。
すまんすまん。

金太郎3 ただ、宮城の村田町の場合は、金太郎の話はそれだけで、
どちらかというと、渡辺綱の話の方が詳しい。
渡辺綱が京都の羅生門で、鬼の右腕を刀で切り落とした
のだが、そのまま逃げ去った鬼を追いかけて十数人の
家来と共に、この東北の村田町まで来たというのである。
ところが鬼は、綱の叔母に化けて近づき、
「それを見せてくれ」というので、しょうがなく石の長持ちを
開いたら、すぐに鬼の形相になり、右腕を掴んで逃げた
ということになっている。そして、その時に、
鬼がすべって手をついて手形が残ったという石もある。

しかし、渡辺綱のこの話も、ほとんど近畿が舞台の場合が多く、
だいたい、鬼の右腕の入った重い石の長持ちを何で
わざわざ、東北まで運んで来たのだろうか?
金太郎4 ただ、村田の伝承では、鬼を取り逃がした渡辺綱は大変悔しがり、
村人もそれに同情し、村ではその後、鬼が伝って逃げたという
囲炉裏の自在鉤や、煙抜けの天井屋根を辞めたという。
綱はその人情にほだされて、村田町を心に留め、
後に、その子孫がここに来て暮らしたという。だから、
今もこの周辺のほとんどは渡辺姓なのである。

ところが、渡辺という姓は、日本の苗字5位以内の
大勢力である。そして、この渡辺綱という人物は、
実は、日本全国の渡辺姓の大元なのである。
その子孫からは、九州の松浦氏も出ているし、徳川の家臣もいるし、
明治の華族も出ている。全国津々浦々にいる。
宮城の村田町の渡辺さんも、どこかの系統だったのであり、
この里で、伝承を膨らませて話を楽しんだのではなかろうか?
あまり断定すると、また、作務衣のおじさんに
怒られそう。

資料「金太郎伝説…金太郎・山姥伝説地調査グループ」夢工房


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