石の2 果物を皮まで食べる欧米人

kudamono1 昔からのお笑いコントに、バナナの皮で滑って転ぶというのがある。
チャップリンの喜劇映画やマンガでおなじみだったが、よくよく考えて
みると、実際には起こりそうにもないというか、ほとんど起こることが
あり得ないと思う。だいたい、外でバナナを食べている人なんて見た
ことがないし、バナナの皮を路上にポイ捨てなんてやったら、かなり
目立つので、ヒンシュクを買うし、今の日本でそういうことをするなんて、
まず考えられないからだ。だいたい、昭和初期に生まれた日本人には、
バナナは憧れの果物だったらしいが、戦後に生まれた、ぼくら世代の
日本人にとっては、バナナなんて別にどうでもいいようなものである。

ところが、イギリス在住の日本人によると、あちらでは道路にバナナの
皮が捨てられていることがけっこう多いという。なにしろ、歩きながら
バナナを食べている人を見かけるのも、割と普通なのだという。これは
決して、バナナが憧れなのではなくて、スポーツ選手が試合前の効果的
なエネルギー源としてバナナを食べるような感覚だという。そして、食べた
後は、割と普通に、皮をそこら辺に捨てて行くという。外国人が日本に
来ると、何もかも清潔で、道路にもゴミひとつ落ちていないのに驚くと
いうが、欧米ではまだけっこう、道路に平気でゴミを捨てるらしいのだ。
フランスのパリでは、ペットの犬を散歩に連れて歩いても、その糞は
日本のように飼い主がポリ袋に回収して持って帰ることもなく、そのまま
なので、パリジェンヌが靴で踏んづけて「ギャー!」となることも多いという。
だから、欧米の街角では、バナナの皮で滑る人がいてもおかしくないのだ。

さらにイギリスでは、歩きながら食べるのはバナナだけではなく、リンゴを
食べている人も多いと言う。日本の青森リンゴのような、大きくて甘い
kudamono2 リンゴではなく、小ぶりで酸味の強い、アップルパイに合うリンゴらしいが、
それを丸かじりしながら歩くのが好きなようである。彼らが、日本のアニメ
で、日本人がリンゴの皮をわざわざ剥いて食べたりするのを見ると、違う
文化だと驚くようである。欧米人にとっては、リンゴというのは、皮のまま
食べるか、そのままミキサーにかけてジュースにして飲むようである。

さらに、あちらでは、人参も食べ歩きするという。そういえば、日本に来た
イギリス人の留学生が、休憩時間にスーパーで人参を買ってきて、生の
ままボリボリとかじっているのを見たことがある。「おまえはウサギか」と
思ったもんだ。でも、確かに、お酒のおつまみに野菜スティックというのが
あり、人参と大根とキューリの細切りを生のままグラスに入れて出す
メニューがあり、人参はナマでも甘味があり、ぼくも実は好きである。

ところが、さらに驚くべきはなんと、果物のキーウイも歩きながら食べるし、
しかも、皮のまま食べるのだという。皮のまま!?そう、皮のままである。
日本では皮を剥いて、果肉だけを食べるのが普通だが、欧米では皮ごと
食べるのが普通なのだという。その理由は、皮と果肉の間に、多くの栄養
があり、しかもそこがおいしいというのだ。なにしろ、キーウイには果肉よりも、
皮の方に3倍の栄養があるので、それを食べないのはもったいないという。
さらに、欧米人は、ブドウも桃も皮ごと食べるのが当たり前なのだという。
あちらからの留学生が、日本人がブドウの皮を皿に残しているのを見ると、
kudamono3 ああ、もったいないなあ!と思うそうである。

そこで、調べてみると、果物を皮のまま食べるのはもっぱら欧米人であり、
アジア諸国の人々は、日本と同じく、ほとんど皮を剥いて食べるようである。
その理由は単純に考えると、アジア人はとても繊細であるが、白人は野性的
であり、大雑把であるから、皮も気にしないのではないかとも思ったりするが、
だいたい、果物の多くは南国のものであり、アジアにはいろんな種類の果物
が、あふれているが、緯度の高い欧米諸国には、限られた果物しかない。
そのせいで、欧米では果物をありがたく思うのではなかろうか。昔の映画を
観ると、欧米の高級ホテルに泊まって部屋に入ると、テーブルの上にいろんな
果物を乗せた高杯が置いてあって、それで豪華さを演出するというシーンが
多かったように思う。昔は、欧米にとって、果物は贅沢品だったのだ。流通が
便利になった今では、そういう意識も薄れたが、皮ごと食べるというのは、
果物を大切にしていた気分のなごりではなかろうか。
(2017年3月)


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