石の2 暗い歌


暗い歌1 ぼくは団塊世代の尻尾であり、1970年代の前半に大学生だったが、
当時は学生運動が挫折し、若者全般にシラケ・ムードが漂い、そのせいで
暗い気分の歌が流行った。

まずはジャズ・ブルース・シンガーの浅川マキ。「ちっちゃな時から」「かもめ」
などを、いつも黒い服で、掠れた声で気だるそうに歌っていた。そして、
全盲の長谷川きよしが見事なボサノバ風のギター演奏で歌った「黒の舟歌」
は、「火垂るの墓」の作家である野坂昭如も歌っていた。
早川義男の歌う「サルビアの花」は見事な失恋の歌であり、
あがた森魚の「赤色エレジー」は、大正ロマン風の哀歌である。
森田童子も「ぼくたちの失敗」など、独特の暗いムードがあり、この曲は
平成になって、TVドラマ「高校教師」のテーマ曲として使われたので有名に
なった。暗いといえば、山崎ハコという女性歌手の曲が、ものすごく暗いと
評判だったが人気があった。ぼくは「織江の歌」というのが好きで、
「信ちゃん,信介しゃん」というフレーズに参ってしまったくちである。
ただ、この人の極限の暗い歌は、「呪い」という曲である。コーンコーン
と釘を打つ、藁人形に釘を打つ…ここまで行けばホラーである。

暗い歌2 同時代の歌謡界では、藤圭子の「夢は夜ひらく」が「15、16、17と私の
人生暗かった…」というハスキーな歌声で大ヒットし、演歌界では、さくらと
一郎の「昭和枯れすすき」というのも流行った。「人生に負けた」という歌だ。
北原ミレイの「ざんげの値打ちもない」というのもすごい。愛する男を殺して、
監獄の中に入ってしまうのである。
さらに、「フランシーヌの場合は」というのは、フランスの学生運動のデモで
死んだ女子学生を歌ったものだし、学生フォークでよく歌われた「小さな日記」
は、山で遭難死した恋人を歌った曲だ。アン真理子の「悲しみは駆け足でやって
くる」という曲もあった。「明日という字は明るい日と書くのね」と歌いながら、
「若いという字は苦しいに似ているわ」とやはり、ほろ苦い。
さらに、上村一夫の漫画の「同棲時代」が人気になり、映画になり、大信田礼子
が主題歌を歌っていたが、それをきっかけにブームになった若い男女の同棲
を歌った、かぐや姫の大ヒット曲「神田川」も、四畳半フォークと言われ、それに
続く彼の「赤ちょうちん」なども内容はけっこう暗い歌だった。井上陽水だって、
初期の「傘がない」「小さな手」などは暗い曲として挙げる人が多い。

そして、なんといっても暗い曲の代表、失恋の女王として、誰もが挙げるのが、
中島みゆきである。「わかれうた」をはじめとして、悲壮なまでの失恋の歌や、
自分を嘆く歌がやたらと多いのに、メロディーラインやテンポが良いせいか、
暗い歌3 30年にもわたって人気がある。一度聞き出すと、ハマってしまう人が多い。
同じ時代の女王として、松任谷由実がいて、こちらは正反対の都会派の
明るいポップスの代表であり、こちらがいわば正統派であり、昔は中島みゆき
が好きだというと、暗い人呼ばわりされることもあったが、実はユーミンにも
暗い歌が存在するのである。それが「コンパートメント」という曲で、列車の
個室の中で睡眠薬自殺するというものである。
しかし暗い歌において、やはり、中島みゆきの右に出るものはいないので
あって、彼女の曲で一番の暗い歌は「恨みます」というのが最高峰だろう。

それにしても、中島みゆきのファンが多いように、世の中には、暗い歌が
とても好きという人はかなり多い。そういう歌を聞くと、心が落ち着くという。
とてもよくわかる。ということで、暗い歌が好きな人のネット掲示板もある。
読売新聞のサイトの「発言小町」に、それを見つけたので、次に紹介したい。
(2014年12月)

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