石の2 暗い歌・その2


暗い1 そのネット掲示板では、暗い歌が好きな人が集まって、いろんな曲を
紹介し合っているので、とてもおもしろい、シュールな世界である。
人によっては、さだ・まさしの「精霊流し」を暗い歌という人もいるが、
長崎出身のぼくにとっては、精霊流しというのは、爆竹がやかましい、
賑やかな祭りなので、ちっとも暗い感じはしない。
「ピクミン・愛の歌」がたまらないという意見もあった。これはわかる。
尽くした末に食べられるという、ジーンとくる、とても悲しい歌である。
NHKみんなの歌の「まっくら森の歌」が暗いという人もいた。これは
子供達にも人気があった曲だというが、童話や昔話の中には、こういう
不可思議な世界は多く、こういうのも必要なのではないかと思う。

ただ、数人が紹介していた「チコタン」という曲には、さすがに首を捻って
しまった。これは1969年に作られた、正確にいうと、「こどものための
合唱組曲チコタン…ぼくのおよめさん」というのだが、これがすごい。
歌詞が関西弁なので、東京ではあまり知られていないが、関西では、
多くの子供達が合唱させられた経験があり、トラウマになっているという。
チエコちゃんという女の子に想いを寄せる男の子の話なのだが、最初は
食べ物の好き嫌いでいろいろあるが、ついにはプロポーズして、将来は
およめさんになってねということになる。ところが、そのチコタンがある日
突然、交通事故死してしまう。男の子は嘆きに嘆くのである。それが合唱で
暗い2 歌われ、誰が殺したんやと盛り上がり、最後はアホー!の叫びで終わる。

当時は交通事故死の数がものすごく、その悲しみを合唱曲にしたものと
思われる。関西風のお笑いが混じっているとはいえ、よくこんな歌を
子供達に歌わせたもんだと思う。しかも、この曲を生み出した作曲作詞
のコンビは続いて、大人の混成合唱曲である「日曜日…ひとりぼっちの
祈り」というのも作って、こちらの方がもっと鬱々としている。これも全て
関西弁で歌われるので、所々にさすがに、お笑いがあるが、内容は、
父ちゃんが酒酔い運転をして、無理な追い越しをして交通事故を起こして
死んでしまったというのだ。相手の車の運転手も死に、その子供に対して、
一人ぼっちになった男の子が「人殺しの子」と言われながらも手紙を書いて、
家も売って、自分も働いて一生かけて弁償金を払いますというのだ。
こういうのを長々と、ピアノ伴奏の混成合唱団で歌うのだが、こういうのを
暗い3 お金を払って聞きにくるという観客というのがわからない。聞いていて
何が楽しいのだろうか?それにしても関西人というのは、こんなに暗い
歌なのに、必ず、お笑いを挟むというのがすごい。

そして、そういういろんな紹介の中に、ハンガリー国歌がすごい!という
のもあった。8番まであって、その詞の全てが、いかに周囲の国によって
攻められ征服され蹂躙されてきたかという悲劇を歌っているという。
詳しく調べてみると、ヨーロッパ大陸のど真ん中にあるハンガリー国
のマジャール人は、古くはモンゴルから、ついでトルコ、ロシア、ドイツと
あらゆる強国から翻弄されて殺戮された悲劇の国なのである。
実際、ハンガリー人には悲観主義者が多く、自殺率もヨーロッパの
中では、ロシアと並んで多い。というわけで、ハンガリー国歌の
動画を観てみたが、おごそかな歌だった。

それよりもっとビックリしたのが、世界中で一番暗い歌というのが
あって、これは世界中でかなり知られていることなのだという。
その題名は「暗い日曜日」といって、作曲者はやはりハンガリー人
暗い4 である。後にシャンソンにもなったが、この曲を聞いた人が次から
次に自殺をしたことにより、イギリスを始め、数か国で放送禁止に
なったという。ところが、この歌は日本でもシャンソンとして、淡谷のり
子や、美輪明宏などによっても歌われているという。どんなもんかと
ぼくもネットの動画で聞いてみたが、自殺したい程の気分には
ならなかった。日本人でこれを聞いて自殺したという話も聞かない。
しかし、世界的には史上最も暗い歌の代表となっている。

それにしても、最近の日本の若いミュージシャンが作る歌は、
やたらに人生の応援歌みたいなのが多くて、「願いは必ずかなう」
というのには辟易である。明るく頑張って生きようと言う前に
もっと、自分の今の心情を正直に歌にしてみろよと言いたくなる。
ただ、尾崎豊みたいに激情的になると、うっとおしいので、
そこそこで、やってくれと思う。やはり、暗い歌は中島みゆきが
一番だと思う。温泉に入っているような気分になれるから。
ちなみにぼくが一番好きなのは「この空を飛べたら」である。
(2014年12月)

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