2の石 たまに九州に帰る


長崎b1 法事というのはいいもんだ。文句なく有給休暇が取れる。
長崎の母も、家族みんなが集まる唯一の機会なので、
日程が決まると、それを楽しみに毎日をウキウキと過ごす。

仙台から長崎に行く場合、まず福岡空港で降りる。
仙台から長崎への直行便というのがないからだ。
福岡空港への飛行機は、博多湾上空を旋回しながら降りる。
真下は中心街である。
降りてから中心街まで、これほど近い空港は、日本で他にない。
空港から地下鉄に乗って天神まで、およそ8分。

天神の繁華街を歩いて、オープンカフェでビールを飲むと、
うーん、海の香りがする。さわやかな海風。
たまらんなあ。

雑踏を歩くと、親戚の誰かれに似た顔立ちの人々が多い。
学生時代に東京から帰郷していた時代には感じなかったが、
東北に暮らしていて帰郷すると、びっくりするほど、そう感じる。
同じ感想を持つ九州人の話はよく聞く。九州顔。

天神の西鉄バスセンターから、長崎行きの高速バスに乗る。
昔から感心しているのだが、これが実に快適である。

長崎2  横3列のゆったりした座席で、
 トイレもコーヒーもあり、数チャンネルの
  BGMがヘッドフォンで聞ける。
 運行の間、ビデオも放映されているが、
 ヘッドフォンなので、音声がバス内に
 常にガンガンと響き渡ることはない。
 (実は、東北のバス旅行では、いつも
 これで悩んでいる)
 九州への旅行者には、西鉄の
 高速バス利用をぜひすすめる。
 JRに比べても安く、時間もそれほど
 変わらず、快適で、
          できれば、そのまま空を飛んで欲しいと思うほどだ。

長崎4 福岡の西鉄バスというのは、日本最大のバス会社である。
アイドリング・ストップの構造を取り入れるのも早かった。
まだ、排気ガス問題がとやかく言われる前である。
赤信号で止まると、自動的にエンジンが止まるようにした。
ただ、そのココロは、単にガソリン節約の発想からだった。
だもんで、当時の福岡市民はみんな「ケチくさ」と言っていた。

長崎には福岡から約2時間半で着く。
シンボルは駅前から見える「稲佐山」である。テレビ塔がある。
長崎の全景を見ようと思えば、ここに限る。低い山だが、
山に囲まれたせせこましい街なので、そこから全てが見える。
 駅前でバスを降りて、まず腹こなしと思うなら、
「片岡」の長崎ちゃんぽんか、「一休軒」のラーメン。
道ゆく長崎人に聞けばすぐに教えてくれる。
「知らない」と答えたら、それは田舎もんである。

市内観光には、チンチン電車が一番便利。どこまで乗っても百円。
現在、チンチン電車が走っている通りは、江戸時代にはちょうど、
波が寄せる浜辺に沿っているので、当時の長崎が想像しやすい。

仲の良い家族が集まる宴というのは、地上でこれほどの
幸せな時はない。至福の時間である。酒を飲んでおしゃべりをして
ワイワイしてしていると、あっという間に過ぎる。
最後の夕方は、最近できた「出島ワーフ」という長崎港に面した
市電1 飲食エリアで、稲佐山に沈む夕焼けを見ながら過ごした。

長崎には、夏の「精霊流し」、秋の「長崎おくんち」という
二大祭りがあるが、最近は、中華街に端を発した
冬の「ランタン祭り」というのが新たに加わり、
かつては町中に埋没していた江戸時代の歴史史跡である
「出島」も、その全体を復興、保存しつつある。
長崎人としては、とてもうれしい。

高校生まで住んでいた長崎という街は、若者にとっては、
じつに退屈で、何の刺激もない街だと思っていたが、
それは、テレビでもてはやされる東京と比べてのことであり、
それを言えば、日本全国の街がみんなそうだろう。
 しかし、観光客の立場から長崎をみると、
じつに魅力的な街だとあらためて思う。

翌日は、福岡にバスで戻り、飛行機までの時間を、百地浜(ももちはま)
の海に突き出した「マリゾン」のオープンデッキで、海風に吹かれながら
ビールを飲んで、快く過ごした。最高。初夏だった。
(2000年)

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