石の2 九州新幹線開通の曲を作ったマイア・ヒラサワ

マイア1 2011年というと、東日本大震災が起こった年だが、同時に九州では
九州新幹線が開通した年でもある。九州ではそれを祝って、テレビで
大々的に宣伝しようと決まっていた。そのためのCM映像も既に作ら
れていて、そのCMを観た人は多いと思うのだが、震災の影響で、
祝い事は自粛という形で、すぐに放映が中止にされてしまった。その
映像は、新幹線が走る車内から沿線を眺めるというものだが、そこ
には開通を祝う人々がいろんな姿で趣向をこらして手を振っている。
そして、そのバックに流れている音楽が実にリズミカルで楽しいもの
だった。「バンバン、ババンバ、ババ、バーンバーン」という、一度聞い
たら、忘れられない軽快なメロディーであり、実に映像と合っていた。
そのメロディーを作曲して、歌っていたのが、マイア・ヒラサワ。

父親は日本人、母親がスウェーデン人というハーフの女性歌手である。
1980年生まれの39歳。21歳の頃から作詞作曲を始め、バンド活動を
経て2007年からソロ歌手になると、ヒット曲を連発し、最優秀新人賞を
始め、スウェーデン・グラミー賞などを獲得し、スウェーデンの音楽界では
有名なシンガー・ソング・ライターなのである。
そんな彼女が、2010年に1年間の休暇を取って日本を訪れたのは、
父の祖国である日本に元々興味があったし、祖父は長崎の五島にまだ
生きていたのだ。そんな彼女が、友人のつてで暮らしたのが仙台だった。
作詞作曲をしながら、一年間を仙台で暮らしたのだった。

その間に作った曲である「It doesn't stop」が、花王「エッセンシャル」
のCMに採用され、続いて「Nerumare」という曲も、大塚製薬の「ポカリ
スエット」のCMに採用されると、日本でのコンサートツアーも出来るように
なっていったのである。そこで彼女は、2011年には仙台から東京へと
拠点を移していた。そういう時、九州新幹線の開通CMの音楽の依頼
が舞い込んだのである。彼女がそのために作曲したのが「Boom」であり、
それを元にJR九州の総力を挙げて作られたCM映像は3月9日から
放送された。素晴らしい出来だった。九州中の人々は沸き立って喜んだ。
マイアもその成功に喜びながら、3月17日に一端スウェーデンに帰国する
ことになっていた。その前に仙台の友人達に挨拶をしようと東京駅から
仙台行きの新幹線に乗ろうとしたのが、2011年3月11日だった。
東日本大震災当日である。

午後2時46分。山手線で東京駅に向かっていたところ、池袋駅で大地震
が発生。鉄道網が被災し、仙台に行くことが不可能になったのだった。
日本の未曾有の悲劇を目の前にしながらも、どうすることもできず、
仕方なく、いったんスウェーデンに帰国した彼女だったが、5月にツアー
のために再来日し、仙台の友人とやっと会えたという。
その間に、ファンの一人が九州新幹線CMの動画をYouTubeに挙げた
まいあ2 ところ、アクセスが急増し、テレビでも取り上げられ、5月18日に、この曲
が発売されると、5月30日にはビルボード・ジャパンで第一位になり、
さらに、このCMは、カンヌ広告映画祭で3部門で賞を取ったのである。
ちなみに彼女は、被災のすぐ後に発表した「FRAGIRE」という曲の収益を
全て東北復興のために日本赤十字に寄付し、2015年に復旧したJR
仙石線のお祭りである「仙石フェス」にも出演している。

ぼくはあのCMが大好きで、初めて見た時、なんと軽快なノリで、音楽も
素晴らしく、九州人なのでうれしいなあと思っていたら、東日本大震災で
中止になったと聞いて残念でしょうがなかった。しかし、ぼくは仙台に住んで
いて、こちらの悲惨さも知っている。この曲を作って歌っているのが、実は
ぼくと同じように九州にも仙台にも繋がりがある女性だと知って、不思議
な感じを持ってしまった。CMは途中で中止になってしまったが、後に
逆に有名になり、今では誰でもYouTubeで見られるので、いろんな人に
一度は観て欲しい動画だと思っている。
(2020年3月)
★九州新幹線開通のCM↓
https://www.youtube.com/watch?v=UNbJzCFgjnU

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