石の2 きれいな水

水1 福岡から仙台に引っ越した時、水道水を飲んで「あ、おいしいな」と
思った。この差は、都市の背後に高い山があるかないかである。
福岡の場合は、連なる山があっても、せいぜいが標高1000m程度。
ところが仙台の場合は、蔵王の山並みは2000m級。さらにそれは
雪解けの水である。東北の雪山は夏までかけてゆっくりと溶ける。
山の中に貯えて、流れ出る水分量が全く違うのである。
そういう水源の水道水なら、過度に塩素消毒する必要がない。それ
が、福岡との違いなのだ。しかし、九州でもとても水がおいしい県が
ある。熊本県だ。背後には阿蘇がある。そのため、熊本の水道水は
すべて地下水を使っている。これでおいしくないわけがない。

そして阿蘇といえば、湧水で有名な場所が幾つもある。一番有名なの
白川水源である。目に見えるほどに湧き上がっていて、それが音を
立てて溝を流れ、川に注ぎ込んでいる。その水量は毎分60トンである。
大分の由布市の近くの森の中には、男池湧水群というのもあり、ここも
同じように観光地になっている。透き通った水が光り輝きながら目の前
に湧いているのを見ることが出来るというのは、極上の幸福だと思う。

そして、こういう幸せを味わえるのは、世界中でごくごく少数の人間だけ
水3 なのだと思うと、なおさらである。なにしろ、世界中では飲み水に苦労して
いる国の方が遥かに多いのだ。清流どころか、ほとんどの外国では水道
水をそのまま飲むとお腹を壊すというのが普通である。水道水をナマの
ままで飲めるのは日本ぐらいである。

その日本だから、地方都市を歩くと、町のあちこちに水路が巡っていて、
清流が流れている風景が多く、特に田舎町では感動する風景がある。
ぼくが幼少期、正月と盆には、父の実家の長崎県諫早市の家に行くこと
になっていて、その近くに小さな川があり、透明な水が流れていて、父は
子供の頃、そこで泳いでいたという。今はそれほどの水量はないが、水は
今もきれいで細長い藻が生えていて、流れにそよいでいる。そのために、
ぼくの頭の中では、清流には細長い藻がそよいでいるという印象が強い。

そこで名前を調べてみると、セキショウモか、梅花藻(バイカモ)らしい。
水2 特に梅花藻は清流でしか育たないし、初夏に白く小さな花を水面に出す。
これが実にかわいらしい。冷水を好むので、西日本では高地の清流に
しかないが、東日本では市街地の川にも育つという。関西では、滋賀県
米原市が有名らしいが、東北では山形県長井市が有名らしいというので、
行ってみることにした。
長井市は朝日連峰から流れてくる清流が、町を縦横に流れていて、水路
が多い水の都と言われている。道の駅「川のみなと・長井」でパンフレット
をもらうと、「梅花藻MAP」という散歩コースが丁寧に案内されている。
静かな田舎町であり、水路沿い歩くと水草がたくさんあり、よく見ると小さ
な白い花が見える。梅花藻である。その水流の中をハヤがすばやく泳い
でいる。ぼくらが行ったのは7月だったので、もうアヤメ園も、つつじ園も
終わっていたが、梅花藻だけは水路のあちこちで見ることが出来て感激
した。きれいで透明な湧き水というのは、日本の宝だと思う。
こんなにきれいな水の国は本当に少ないのだから。
(2018年5月)


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