石の2 向い風に進む操船の不思議


向かい風1 それにしても、帆船が、向かい風に対してなぜ、
前に進めるのか?というのが不思議である。これは、
ヨットの原理を検索すれば、ちゃんと出てくるのだが、
今までの僕や、例えば、妻や母や妹達や友人達も、
ヨットが走る映像を見ながら、それを何も不思議に
思わなかったのが、これまた不思議なのである。
「ま、それなりの技術があるんだろう」と思うか、
「え!ヨットって、向かい風の方向に進めるの?」と
妹は、それすら初めて知ったようだった。

とにかく、その原理は揚力(ようりょく)だという。
なんじゃそれ?と思う人に対して、最初にされる説明は
飛行機がなぜ浮くかと話である。それは翼の構造にある。
飛行機の翼は底が平らで、上が丸く膨らんでいる。
向かい風2 そこに空気が当たる時、上部に流れる空気は早くなり、
その分、空気の密度が薄くなり、そこで上に引き揚げる力
が生ずるという。それが揚力で、そっちに引っ張られて
浮き上がるのだという。

で、船の場合だが、帆を斜めに傾けて膨らませると、
逆風でも膨らんだ方向に引っ張る揚力が生じるので、
斜め前に進む。それを左右に繰り返すと、ジグザグながら
前に進んでゆくのである。西洋の船乗り達はそのことを
シンドバッドの時代から知っていたので、帆を自由に操り
七つの海を自由に航海することが出来たのだ。日本人は
長くそのことを知らず、江戸時代後半になって、やっと、
知る。

ところが、おもしろいことに、日本人というか東洋人は、
小舟に限ってだが、かなり昔から、その揚力を利用した
推進力を無意識に使っていたという。それが一本櫓である。
小舟を動かす時、西洋では伝統的に、オールで漕ぐ。
ところが、日本では船尾に一本の櫓をつけてそれを
左右斜めに動かすことによって推進力を得るのである。
この物理もまた素人にはわからない。
オールで漕ぐのなら、公園のボートなどに乗った時に、
理屈はすぐわかるのだが、一本の櫓がなぜ推進力になるのか?
向かい風3 実はこれも揚力のせいだという。
飛行機の翼に似た形の櫓を半円を描くように左右に動かし、
そこで生まれる揚力で船を前に進める。
この櫓漕ぎ船は、西洋には生まれず、東南アジア、中国
日本にだけ発達したのであり、こんな複雑な操舟法を誰が
どうやって発見したのか?実に不思議な話である。
とにかくも、ヨットのような向かい風で前に進む操舟法と
櫓による小舟の操船法が、推進力の原理としては同じだという。

やがて、ペリーが浦賀に来航した時の黒船というのは、
石炭を燃やして走る蒸気船であり、蒸気機関というもの自体が
すごい発明だったが、それを船に応用する場合、最初は
外輪船だった。船の外側に水車のようなものを付け、それを
回して前に進む。いわば、クロール泳ぎのようなものである。

ところがヨーロッパで、スクリューというものが発明される。
今では誰でも知っているものだが、これで推進力が格段に
大きくなり、船も速力を得た。一体、誰が発明したのか知ら
向かい風4 ないが、これも揚力を利用した推進法だという。
もう、ここまでくると、スクリューのどこらへんが揚力なのか
僕などには、さっぱりわからない。

でも、このスクリューの原理にしても、櫓の一本漕ぎと
同じく、学者が計算の上で考え出したものではないだろうと
思う(あまり自信がない)。多分、海にいつも関わっていた
人が何かの折に見つけ出した発見ではなかろうか。

ただ、スクリューに関しては、螺旋の不思議な力学を知って
いた西洋人でしか思いつかなかっただろう。なにしろ、
螺旋構造の不思議な力学に最初に注目したのは、紀元前
3世紀の古代ギリシャの数学者・アルキメデスであり、
彼は当時、既に揚水式ねじ構造を発明しているのだ。
彼の後継者のヨーロッパ人は、彼の不思議を継承していたから
こそ、揚力を知らずとも、スクリューを発明できたのだろう。


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