2の石 日光はもう結構


  日帰りのバスツアーで日光に行ってきた。
日光1   西暦2000年ミレニアム記念とかで、
  一人2000円。チラシを見て、あまりの安さに
  ビックリして、すぐ申し込んでしまった。
   なにしろ、仙台から栃木県の日光まで、
  マイカーで行くとすると、片道の高速代だけで、
  6千円はかかるのである。
  日光。世界遺産である。一度は見るべし。
  ツアーは満員。バス2台を連ねて高速を走った。

  日光の観光というのは、二社一寺を回る。
  その共通拝観券を9百円で買う。さあ、それで、
  自由行動だと思ったら、三代将軍・家光の廟の
  説明を、宮司がしてくれるという。それは親切な
  こと。ところが40名を集めて、
  「1時間、ちゃんとついて来て下さい」という。
  なにか、イヤな予感がした。
  集団をゾロゾロ連れて歩いては、立ち止まって説明する。
  説明が終わるまで、先に進むなという。ムカッとくる。
  研修じゃあるまいし、こっちは遊びに来てるのだ。

     最後に辿り着いたのが、拝殿。
日光2   靴を脱いで上がれという。
  中に、国宝や重要文化財が山ほどあるのだという。
  どういうのが、国宝なのか見たいから、素直に靴を脱ぐ。
  で、40名が拝殿に入ったら、後ろから扉を閉められて、
  今から30分説明がありますので、その間、
  立ち上がってはいけませんと、別の宮司が言う。
  おい、何なんだ、これは?

  まずは、目の前にある金屏風の説明だ。
  狩野派の絵師が描いたという、有名な絵が並ぶ。
  そして、天井には龍の絵。一枚が1千万円する
  というのが50枚。そして、天井からぶら下げられた
  金箔の籠やら、奥の本殿にある宝物の数々。
  ツアーのおばさんたちが、ハアーっと感心している。
   そして、一番前にある不動明王の像の説明をしながら、
  宮司が出してきたのが、
  不動明王が右手に持っている刀の、小型のレプリカだ。
  仏壇への供え方を重々しく説明した後で、一本5000円で
  「お分けする」という。「ただ今から、見本を回しますので、
  後ろに順々に回して下さい」と言い、説明を続ける。
  「家の神棚に供える、御札がありますね。あれは、毎年
  正月に神社で燃やしてもらわなければなりません。そして、
  新しく買わなければなりません。その度に2000円かかる。
  でも、この剣は買い換える必要はありません。5000円ポッキリ
  の一生ものです。この場で、お分けしますので、ご希望の方は
  ハイ、手を上げて下さい。しかも、今日、買われた方には、
  天海僧正の『人生は一度ならず』という、ありがたい御言葉の
  筆書のコピーをおつけ致します」と、声を大きくする。

日光4   おいおい、おめえ、ほんとに宮司かよ、と言いたくなる。
  これではまるで、催眠商法だ。
  人の自由時間を奪って、国宝をダシに、
  霊験あらたかというモノを売りつける。
  新興宗教なら、いざしらず、ここは天下の徳川家康の
  聖なる廟だろうが。しかも、世界遺産である。
  世界遺産に指定された建物の中で、神社の宮司が
  堂々と、こういうエゲツない商売をやって、いいものか。
     また、それを買う人間がいる。5,6人が手を上げた。
  人生は、自分の足で立って歩みなさい、と言いたかった。
  宮司は、「もう、いないですか?」としつこく見回して
  いたが、もういないと、みると、最後に
  「この目の前にあります座布団、そこに歴代の将軍が
  座って、本殿を拝んでいかれたのです。みなさんも、
  そこで拝んでいって下さい。庶民は決して、こういう所
  には座れなかったのです」と厳かに言った。
  すると、みなさん、我先にと、座布団に押しかけていた。
  あまりに、バカバカしかったので、ぼくは人並みをかきわけて
日光5   一番先に、出口から外に抜け出した。
  すぐに優子が追いかけてきて、苦笑いしながら、
  「見世物小屋の、ろくろ首みたいなものと思えばいいじゃない」
  と言ったが、ぼくはムカムカして、しょうがなかった。

  その後は、2時間を二人で勝手に、メインの東照宮を
  見たり、立派な木立の中に点在する建築群を見たり、
  参道を歩いたり、様々に感心して楽しかったのだが、
  茶店や、みやげ物屋は、どこも商売一辺倒で、情緒が
  なく、人柄もギスギスしていた。ろくなとこではない。
  ぼくは、日光には、昔一回来たことがあり、
  その、自然に囲まれた雰囲気自体は好きなのだが、
  今回、あまりに観光ズレした日光には幻滅してしまった。
  できれば、世界遺産から外して欲しいとさえ思う。
  世界遺産の価値なし。(1998年)

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