石の2 ステーキに関する、ある疑問


霜降り1 松坂牛などの霜降り肉は、値段も飛び切りだが、
スキヤキにしても、ステーキにしても極上の美味
というのが、日本での常識である。
外国人もその美味さにビックリするという。
長年、単純に、そう信じて来たが、
ここにきて、少し疑念が生じてきた。

日本と海外を行き来する人、あるいはあちらで
多少は暮らした人などが書いたエッセイに、
それは違う」という情報が複数、あるのだ。
例えば、イタリア在住のオペラ歌手、中丸三千絵さん。
「松坂牛?おいしくないわよ、あんなの。
ニチョっとしてて、痛風の牛のお肉食べているような。
イタリアのお肉食べたら、日本のお肉なんか
食べられませんよ」と言う。
 あるいは、アルゼンチン在住の人も、
ニューヨークにいる人も、霜降りの肉よりも、
赤身の肉の方がずっとうまいと言う。??

 また、日本の食肉業者の人が、ニューヨークの
霜降り2 有名なステーキ店に連れられていって、分厚い
赤身肉のステーキを食べて、「肉の味がする!
と驚いたという話もある。

ぼくの場合、牛のステーキといえば、
もっぱら、安いオージービーフを食べているが、
これは、放牧で草を食べて育つという
典型的な赤身の多い肉である。
 ところが、ある時、木箱入りの松坂牛の霜降りの
極上ステーキ肉をもらう機会があった。
おお!ついに松坂さんが来てくれたかと、
喜び勇んで、焼いて食べてみたが…
あまり感激しなかった。うーむ、と悩む。
値段は数倍もするはずである。

さらに、「ニューヨークのステーキの方がうまいよ」、
と語るあちら在住の人のエッセイを見つけては
読んでいたら、へえ!と思う報告があった。まず、
ステーキは網で焼かなけりゃだめだ」という。
すると脂分が落ちて肉本来の味になるという。
日本のように、鉄板で焼いていては、脂分べったりで、
霜降り3 胃にもたれてしょうがないのだという。
ましてや、霜降りというのは、脂分だらけだ。

そしてステーキというならば、日本のように、
薄っぺらいステーキではなくて、もっと分厚いステーキ
でないと、肉のうまさは出ないという。
日本の肉食は、脂味の美味さだけで食べているという。
それは肉本来の美味さではなくて、ソーセージや
ハンバーグ・ミンチの美味さなんだという。
なんとなく、わかるような気がしてきた。

バーベキューの肉料理のひとつに、
牛肉の塊を、塩・胡椒だけで焼いて食べるというのがある。
たいへん野性的である。
炭火の網の上に、塩・胡椒を振った牛肉の塊を
ゴロンところがして焼き、表面が焼けたところで、
ひっくり返して、ナイフでそいで食べ、そこにまた
塩・胡椒を振って、ゴロンところがして、
反対側をナイフでこそげて食べ、を繰り返すのである。
これが、本来の肉の食べ方に近いかもしれない。
このやり方は、ぼくらも体験ずみなので保証する。
それに脂分の多い肉は胃にもたれるが、赤身肉だけなら
さっぱりしているので、けっこう多く食べてしまうという。

霜降り4 では、外国人が日本のスキヤキを好むのはなぜか?
というと、これは和牛の霜降り肉が合うのである。
だいたい、日本人が肉を食べるようになったのは
明治からであって、しかも、肉は値段も高いので、
塊をモグモグと食べる贅沢はできなかった。そこで、
薄く切った肉をおいしく食べる料理法が発達した。
それが、スキヤキであり、しゃぶしゃぶなのだ。
そして、それにピッタリ合うのが、
霜降り肉だったというわけだ。

結論として、スキヤキや、しゃぶしゃぶには
薄く切った松坂牛などの霜降り肉、
ステーキには、オージービーフなどの、
分厚い赤身肉を、網焼きするのが、
最もうまいということになる。そうだったのか。
どちらにしろ、肉を食えるのは幸せである。


石の2 最初に戻る