石の2 夏のニナ貝獲り


ニナ1 夏は海だ!ということで、一応、海にいくのだが、この歳になって、
ただ単に海で泳いでも今さらおもしろくもないし、かといって、
浜辺で寝そべっていても退屈だ。そうなると岩場だ。
水中メガネとシュノーケルで海中を覗くだけで、いろんな小魚や、
貝類、ナマコなどもいて、なかなかおもしろいし飽きない。
しかも、貝類は採集すると、酒のおつまみになるのがうれしい。
ただ、アワビやサザエは漁業組合のものなので、ぼくら一般人に
採るのが許されているのは、その他のものである。

そこで、誰にでも採れて、酒のつまみになる、その代表といえば、
ニナ貝である。浅い水面下の岩にくっついている小さな巻き貝。
地方によって呼び名がいろいろで、東北ではツブ(小さな貝の
総称らしい)というが、これは市場で売られている「つぶ貝」とは
別物である。全国的には、「しったか」とか「ばていら」などと
呼ばれることが多い。特に関東などでは、そのどちらかで呼ばれる。

ただ、よく調べてみると、「しったか」の場合は、形が円錐形で
丸っこいニナとは少し形が違うし、しったかの方がやや大きくて
ニナ2 味も良い。こっちを採った場合の方がうれしい。このシッタカは、
長崎県の五島列島や、四国などの漁業組合が、ネット上の通信
販売で売っているが、その値段は、一個がサザエ並の高値である。

高値といえば、ニナの種類で、キサゴというのがある。
同じくらいの親指大の大きさなのだが、ニナが岩場にくっついて
殻にコケなどを生やしているのに対して、砂浜で採れるために
殻がツルツルしていて、模様も渦巻き状になっている。
たぶん、千葉の九十九里浜辺りで獲れるのかと思う。
ぼくが東京にいた頃、寿司屋に入ると、これが付き出しとして、
小皿に7,8個出てきたことがある。食べてみると、実にうまい。
おもわず、おかわりを頼んだのだが、700円取られた。どうも
希少のものらしいのだ。関東では「ナガラミ」とも言う。

ただ、日本中のどこの岩場でも採れる、一般的なニナ貝は、
子供でもたくさん採れるし、塩ゆでするか、みりんと醤油で煮ると
酒の肴にはとても合う。マチ針を使って、サザエと同じように
ニナ3 身をくるんと回して出す。サザエの腸は量も多くてグロテスクだが
ニナは小さいので、多少の苦味もほのぼのとしている。

岩場には、ニナの他にも、酒のおつまみがまだまだいる。
サラ貝もそうだ。これはナイフを使って剥がさなければならないが、
形状はいわば、アワビのミニがトコブシとすれば、サラ貝は、その
超ミニ版といえる。岩場に行けば、どこにでも見かける。身が
殻にしっかりついているように思うが、ザルに乗せてお湯をかければ
あっさりと殻から外れてくれる。その身を、みりんと醤油で
フライパンで炒り煮すると、プリプリして、良い酒の肴になる。

狩猟採集というのは、実に楽しいもので、初夏ならばアサリ掘りだが、
夏と言えばニナ貝の採集が夏の楽しみになってしまった。
ただ、ひとつ悲しいのが、仙台は夏の8月に晴天が少なく、
しかも、海水温が低いことだ。海に入ると、ひえー!となる。
さらに、仙台周辺の海は、だだっ広い砂浜が続いていて、岩場が
ないのだ。岩場を求めて、ずっと北の海岸までドライブしなければ
ならない。それでも、ぼくは夏を求めてゆくのである。
(2005年)

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