石の2 なぜ出島のオランダ人のベッドは短いのか?


オランダ1 ある作家が長崎観光に来て、復元された出島を見て回った時に、
オランダ人カピタンの部屋のベッドを見て、「ずいぶん短いな」と
思ったという。その時の案内人から「当時は上半身を起こして
寝ていたようですよ」と解説され、それをエッセイに書いているが、
それを読んで、ぼくはおかしいなと思った。だいたい、ベッドで
眠るのに、そんなに不自然な格好で寝るわけがないじゃないか。
それにぼくは、長崎を舞台にした幕末の歴史小説を多く書いている
吉本昭さんが、何かのエッセイで、当時のオランダ人の身長は、
今よりかなり低かったという話を、頭の隅に覚えていた。

そこで調べてみると、実は幕末当時のオランダ人男性の平均身長は
165cmぐらいだったという。現在の日本人の平均身長が170cm
だから、当時のオランダ人はぼくらよりずいぶんチビだったことに
なる。だから、今の日本人がそのベッドを見ると「短く」見えてもおかし
くはないのだ。ただ、幕末当時の日本人男性の平均身長は、もっと
低くて156cmだったというから、165cmのオランダ人から見ても
ずっとチビだったわけである。
ちなみに、坂本龍馬の身長は、どうも173cmくらいだったらしいので、
オランダ人から見ても大男だったし、日本人の中にいるとさらに大男
だったのである。

オランダ2 ただ、当時のオランダ人の平均身長が165cmだったということ自体が
ウソのような話である。というのは、オランダ人男性の平均身長は、
現在では、欧米白人の中では一番高くて、180cmを越えるからで
ある。つまり、100年間で15cm以上も伸びたことになる。
身長というのは、科学的には、ほとんどが遺伝的なものであるとされ、
白人は基本的にアジア人より背が高いし、一般的に、親の身長が
高いと子供もおおむね身長が高いということでわかる。
しかし、このオランダ人の身長の伸び方を考えると、遺伝以外の
何かが作用していると考えて当然であるし、それが食べ物や栄養で
あることは容易に想像がつく。

オランダは中世のころは貧しい国だったが、漁業で獲った生のニシンを
酢漬けにして樽に詰めたものを、近隣諸国に輸出したところ大好評になり、
それで富を貯え、その資金を元に海洋貿易をやるようになり、それで一気に
国が豊かになった。当然ながら、食生活も豊かにり、乳製品を多く摂るように
なった。今では、オランダといえばチーズが有名である。もちろん、毎日、
牛乳を飲む。(もちろん、日本のような栄養が削がれた加工乳ではなくて、
本物の牛乳である)そして、朝食にはココアをよく飲むそうである。
そして、とにかくニシンのマリネが大好きだそうである。そういうものを
食べて、オランダ人は大きくなったのである。

ただ、よく考えてみれば、日本人だって、江戸時代の156cmから
現在の男子の平均身長が170cmになったのだから、やはり同じく
オランダ3 15cmも伸びているわけである。そして、日本の場合は、食生活の
変化はオランダどころではなくて、もっと劇的である。

なにしろ、江戸時代までの日本人は、仏教思想の影響により、ほとんど
獣肉を食べなかったのである。何を食べていたかというと、タクワン
などの漬け物と味噌汁、そして、わずかな干し魚などのオカズで、
とにかく、ご飯だけをモリモリ食べるというだけの食生活である。
それが、明治時代になると西洋の影響で、肉を食べるようになったし、
昭和の戦後からしばらくすると、経済成長と共に、食生活が驚異的に
豊かになった。それに加えて、長く畳の上で足を折り畳んで暮らしていた
のが、椅子に座る生活に変わったので、足も長くなった。

しかし、日本人が15cm伸びたといっても、オランダ人も15cm伸びて
いるので、相変わらず白人が日本人よりずっと背が高いというのは
全く変わらないのである。ここらへんが遺伝子のなせるワザであろうか?


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