石の2 京都のお稚児さん


お稚児1 前回、ぼくが京都の吉田の生まれで、京都の「時代祭り」に
お稚児さんで参加したと書いたら、それを見た長崎の母から、
翌日の朝にあわてふためいた様子で電話がかかってきた。
「あなたね、とんでもない間違いをしてるわよ!」「なんで?」
「あなたがお稚児さんに出たのは、時代祭りではなくて、
吉田神社の祭りよ。もし、京都の知人が読んでしまったら、
バカにされるわよ」というのだ。時代祭りのお稚児さんというのは、
京都市民でも、格式の高い家でしかなれないと強調するのだ。
ましてや、我が家は戦後すぐの、にわか京都市民でしかなか
ったのに、京都の人に知られたら笑われるという。おっと、
そうか、これは笑い事ではないと、大急ぎで訂正した。

そして、今さらながら、京都三大祭りを調べてみた。
葵祭、祇園祭、時代祭の中で、お稚児さんが主役に
なるのが、山鉾巡行で有名な祇園祭である。なにしろ、
この子が行う儀式によって、祭りが始まり終わるのだから、
ほとんど生き神様の扱いである。当然、どこの子がなるかは、
極端に絞られてくる。京都市民であり、しかも洛中からの古い
家柄であり、財産家でなければならない。なにしろ、祇園祭の
お稚児さんになると、衣装、儀式費用、宴会費用その他あれ
これを含めて3000万円の出費が必要になるという。
並の家の子ではなれないのである。

次に、明治28年に始まった時代祭りというのは、三大祭りの
中では比較的、歴史が浅い。天皇が東京に去って、一時期、
京都が廃れたことがあった。そこで、なんとか千数百年に渡る
伝統技術と文化を守ろうと、市民が平安講社という組織を作り、
平安神宮を建築した後、御所から平安神宮まで、歴史絵巻を
再現したパレードをすることにした。そして、京都の誇りを維持
お稚児さん2 するためにも、衣装や祭具は、どれも時代考証に基づいて
職人によって作られた。つまり、本物を再現したのである。
その衣装を着る参列者も、京都市内の各町のそれなりの人で
なければならない。つまり、時代祭りのお稚児さんが、祇園祭の
お稚児さんより、ワンランク下といえども、それなりの家柄の
お子さんなのである。そう考えると、にわか京都市民の子で
ある幼い僕が、時代祭りのお稚児さんに
なれるはずはなかったのだ。

ただ、時代祭りに関しては、京都市民でなくても、衣装を着て
参加する方法がある。実は、名もない主従に関しては、学生
アルバイトを募集している。ただし、京大、同志社大、立命館大
に割り振られているという。一日7000円で、朝食・昼食が
出るが、拘束時間が長く、約束事も多いので、最近は応募が
少なくなっている。そのためにだんだん、県外の大学にも
応募の枠を広げている。もちろん、一般人にも枠を広げれば、
応募が爆発的に増えるのはわかっているが、それをしないの
は、ハロウィンの仮装行列の気分で来られては困るからで
ある。京都の伝統文化を伝えるために行っている行事なので、
それを外れてはならないということだ。もっともである。

(2015年12月)

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