石の2 冷やし中華と、冷やしラーメンと、盛岡冷麺


冷やし中華3 夏に食べたくなる麺といえば、冷やし中華
その発祥は仙台だという。錦町の「龍亭」が元祖。
ところが、東京のグルメ番組を見ていると、
「ここが冷やし中華の発祥の店です」と
東京は神田の「揚子江」という中華料理店が
たびたび紹介される。いったい、どっちなんだ?

いろいろ調べてみると、やはり仙台が発祥です。
「全日本冷やし中華愛好会(全冷中)」も認めている。
まずは、めでたい。
しかし、それが意外と知られていないというのは、
どうも、スマートさを求める仙台人が、
あまり騒がないせいらしい。

一方、隣の山形県では、「冷やしラーメン」というのが
発明された。仙台の冷やし中華と違って、山形では、
どうしても汁たっぷりのラーメンを
そのまま冷やすことに、こだわった。
しかし、そのまま冷やしたのでは、動物性油脂が固まって
しまうので、植物系やらでいろいろ工夫した。

で、できたのが山形名物「冷やしラーメン」。
どんぶりも、見た目も熱いラーメンとほぼ同じ。
ただ、氷が浮かんでいてビックリする。冷たいのである。
 今や、町のあちこちに、のぼりが立っている。
どれ、と行って食べてきた。うーん…。
山形県内では、どうだ!と胸を張っているのだが、
山形県外に広がるかどうかは、わからん。

と思っていたら、2000年頃から、東京圏でも
メニューに加える店が増えてきたとか。
岩手冷麺 ただ、東京の場合、とんでもないものが多いらしく、
山形の元祖である「栄屋本店」の美味さには遠く及ばない
ということで、山形まで食べにくるラーメン通が多い。

冷たい麺といえば、岩手県には「盛岡冷麺」がある。
今でこそ、盛岡市を越えて、岩手県の名物であるが、
元々は、朝鮮半島が発祥の麺で、
朝鮮半島が日本の植民地時代だった頃に、
その美味さを覚えた人が、日本に帰って再現したのが、
始まりだという。「食道園」という店が元祖であり、
東京ではめったにお目にかかれない、ご当地麺である。

ただ、同じ東北の仙台では、焼肉チェーンに行くと、
この盛岡冷麺が、メニューにあることが多く、
優子が好物なので、いつも注文する。
麺はゴムみたいで弾力があり、ぼくはどうも苦手だが、
スープは、ダシが利いていて、とてもうまい。

それにしても、どうして夏の長い九州ではなくて、
夏の短い東北でばかり、冷たい麺が生まれるのか?
 しかも、冷やし中華をはじめとして、冷麺は、
九州でも沖縄でも、東日本ほど好まれない。
まあ、九州のラーメンは豚骨スープだから、
もろの動物性油脂である。冷やすわけにもいかない。
冷やしてみようとも思わなかった。
どちらかといえば、熱いラーメンを食べて思い切り汗を
かいて、水シャワーを浴びた方が、いっそ気持ちいい。
西日本の夏は、ほとんどヤケクソである。

というようなことを考えながら、岩手冷麺を食べていたら、
ふっと気付いたのが、長崎の母のことだった。
母は北朝鮮の元山(げんざん)で生まれた。
終戦になって九州に引き揚げたが、
夏112 それなら、同じ冷麺を食べたことがあるのでは?
と電話して聞いてみた。すると、
「知っているわよ。よく食べた」と言う。
引き揚げ船を待ってる時、
「最後に、朝鮮ソバをもう一杯だけ食べに行こう」
とみんなで、食べに行ったという。みんな好きだったらしい。

そこで、ぼくは、よく行く焼き肉屋で売っている袋詰めの
冷麺セットを長崎の母に送ってみた。そして
「どう?同じ味?」と聞いてみた。
母は、電話の向こうでうなづいて、
「麺は朝鮮そばと同じ」だという。懐かしいと。
ただ、スープはもっとコクがあって、おいしかったという。
ぼくは、これですら充分おいしいと思っているのに、
本場ものは、それよりおいしいのかと、唸ってしまった。
すると、母が言うには、
「あっちでは犬のスープを使っていたらしいよ」という。
ううむ、犬か。うなってしまった。
そのうち、韓国に行って、犬の料理を食ってみたいと思う。

人から聞いた話だが、日本の犬は吠えていばっているが、
韓国や中国では犬は、伏目がちに暮らしているという。
(2001年)

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