石の2 長崎ちゃんぽんと、リンガーハット

リンガ1 先日、テレビ「マツコの知らない世界」で、「長崎ちゃんぽんだけが、
ちゃんぽんではない」というテーマで、雲仙市役所の公務員で、自称・
ちゃんぽん番長という人が来て、日本全国にあるというちゃんぽんを
紹介していたが、だいたい、そのテーマ自体が矛盾している。なにしろ、
網走ちゃんぽんにしろ、鳥取ちゃんぽんにしろ、ちゃんぽん麺を使って
ないし、スープも全く違う。それなら、わざわざ「ちゃんぽん」という名前
を使わずに、○○麺という独自の名前をつければいいのである。
長崎ちゃんぽんにとっては、誤解を招くし、いい迷惑である。

さらに最近、ネットのトピックを眺めていたら、長崎に行って、タクシーの
運転手に「長崎ちゃんぽんのおいしい店に連れてって」と言ったら、
リンガーハットに連れて行かれたという話があるが、信じがたいことで
ある。その運転手は何事かがあって、この世をはかなんでいたのだろう。
そうでなければ、新地の中華街か、思案橋に案内するはずである。
江山楼、康楽(かんろ)、よこはま、天天有など、おいしい店を長崎人
なら、いろいろ知っているはずである。

しかし、長崎市民がみんなこぞって、そういう有名店にいくかというと
リンガ2 それは違う。たいていは、ご近所の小さな中華店に行くのである。
だいたい、ちゃんぽんも皿うどんも、長崎では家庭料理ではなくて、
あくまで店屋物なのである。だから、ちゃんぽんと皿うどんに関しては、
昔はどこも、味に大差はなくて、それでいておいしかったのだ。
ところが最近になって、個性を出そうとアレンジする店が増えてきた。
それが、長崎ちゃんぽんに関して、誤解を生む原因にもなっている。
リンガーハットもその一つである。

リンガーハットは元々、長崎の「浜かつ」というトンカツ屋が、全国展開
を狙って始めた、長崎ちゃんぽんと皿うどんの専門店であり、少しづつ
日本列島を東進していたが、2010年にはついに仙台にまで出店した。
もちろん、ぼくはすぐに食べに行き、「ああ、長崎の味だ」と喜んだのだが、
何回か食べに行くうちに、少し違うなあと思った。
最初に気付いたのは、仙台人の妻だった。スープに赤い油が浮いて
いるというのだ。店の人に聞いてみると「ラー油」だという。全店でそう
リンガ3 いうマニュアルになっているという。しかし、本来の長崎ちゃんぽんには
ラー油なんか入れない。それ以後、ぼくらはリンガーハットで、チャンポン
を食べる時には、いちいち「ラー油抜きで」と注文するしかなかった。

さらに、何度か食べているうちに気付いたのは、どうも味に深みがない
ということだ。むしろ「みろく屋」の製品で妻が作ってくれる方が、はるかに
おいしいのである。なんでかと首を傾げていたら、妻がある日、
リンガーハットはラードを使ってないからよ」と言う。
実は、リンガーハットの具材は全て国内産であり、安全で健康だ
ということで人気があるのだが、健康にこだわるあまり、具材を
炒める油もサラダ油なのである。だから、旨みが出ないのである。

長崎ちゃんぽんと皿うどんを作る場合、具材を炒める時には必ず、
ラード(豚の脂)を使わなければ、あの旨みは出ない。
だから、「みろく屋」を始めとして、他の会社の袋物にも必ず、ラードの
小袋が添えてあるのだ。というわけで、リンガーハットの長崎ちゃんぽん
は、本場の味とは違うのである。本物を食べたいならば、長崎に来て、
新地中華街か、思案橋で探すしかないと、ボクは断言する。

リンガ4 それにしても、ラードは食べ物をとてもおいしくするのは間違いない。
ぼくがコーヒー屋に居た頃、そこのマニュアルで、ホットドックの
ソーセージは鍋に溶かしたラードで揚げていたが、これが実においし
かったのだ。そして、最近のカップラーメンで「クッタ」というのが
あって、そのCMでは「ラードの旨み」をやたら強調しているのである。
やはりそうか、と思う。豚はえらいと思う。

そして、リンガーハットでさらにがっかりするのは、味噌味ちゃんぽん
なるものがあることだ。これは長崎人にとっては、想像するだに怖ろしい
ゲテ物である。何故かというと、豚骨味と味噌味というのは、究極の
対立物だからである。
(2018年2月)


石の3 目次に戻る