石の2 六本木ヒルズ


六本木1 5月のGWに、東京への日帰りバスツアーに行った。
「葛飾、柴又、浅草」と、「六本木ヒルズ」の2コースがあり、
どちらにするか迷ったが、六本木ヒルズの方にした。
東京在住の頃から、浅草界隈は何度も行ったが、
青山、六本木方面にはとんと縁がなかった。

しかし、六本木ヒルズといっても、何があるのだろう?
ヒルズ族と言われる、若きIT長者がたくさん居て、
超高層ビルで、現在の東京で最も華やいでいる場所らしい
というのはわかるけれどさ、とぼくが首を傾げていると、
シャカシャカと検索していた妻が、下層階には
おしゃれな店やレストラン街があり、けっこう賑わっていて、
テレビ朝日の社屋が隣接していて、目の前に「毛利庭園」
というのがあり、朝の番組(仙台では、東日本放送)では、
そこから天気予報の中継を毎日やっているし、
「何より、そこの場所の雰囲気を楽しみたいじゃないの?」
と乗り気なので、よし、おのぼりさんしよう、ということになった。

高速バスで5時間というのは辛かったが、快晴である。
首都高に入り、都心に近づくと、ワクワクする。
仙台はまだ新緑の始まりなのに、こちらではもう夏の緑だ。
お濠が見える、武道館の屋根が見える、赤坂プリンスが見える…

六本木22 ヒルズの真下に立って見上げると、たいした威容である。
ここにフロアを持つ人間は、大金を動かしているんだろうなあ、
東京を牛耳っているんだろうなあと思う。参りましたと思う。
大きな建物というのは、人をそういう気分にさせるのだ。

妻に手を引っ張られて、52階にある展望階に昇る。
海抜250mの高さである。エレベーターを降りると、
すぐ目の前に、見降ろすように東京タワーがある。
このところの昭和の映画、「三丁目の夕日」や、
「東京タワー、オカンとボクと…」でも必ず登場した
昭和の象徴のような東京タワーである。
少し、ウルルンとする。

展望階の一周300mを窓に沿ってぐるり歩くと、
360°のパノラマである。これはすごい!
近くには国会議事堂や、警視庁の建物、
遠くに目を転じれば、新宿の高層ビル群や、池袋のビル群。
緑というと、代々木公園や新宿御苑が目立つ。
新宿都庁にも、同じ高さくらいに展望階があるというが、
周りに高層ビルが乱立しているために、
見晴らしは邪魔されるという。
そういうことを考えると、六本木ヒルズからのパノラマは、
当代、お江戸一の素晴らしさと言えるのだ。

この展望階では、コーヒーや、缶ビールも売っているし
窓際には、ソファやテーブルがそこここに置かれているので、
じっくり楽しもうと思えば、腰を据えてもいいかもしれない。
ぼくらの隣にいた中年の男性は足を投げ出して、
六本木3 もうこの光景に一日をゆだねている風だった。
実は、ぼくが六本木ヒルズに関して「何があるの?」と
思った時、この展望階は入場料が1200円もするので、
ハナから消極的だったのだが、妻は真っ先にここを目差した。
そして、それは大正解だったのだ。
むしろ、ぼくの方が、あすこに迎賓館が見えるよ、表参道は
あそこだなどと指差しながら興奮してしまった。
東京都心を見渡すことが、こんなにおもしろいなんて意外だった。
双眼鏡と、詳細な地図を持っていたら、
もっと楽しめたのになあと、思うのであった。

今回のバスツアーには、ちょっと異質の一人がいた。
大学生くらいの男性で、途中の休憩時でも、みやげ物屋でも、
ろくにバスを降りることもなく、一人、車内で黙々と本を読んでいた。
その本がどれも、経済学やら為替関係のノウハウの本で、
「勝利の方程式」という表題がやたら目についた。
想像するに、彼はヒルズ族の長者を目差しているのだろう。
今回のバスツアーに参加したのも、ひとえに、
「ここの住人になっている自分」というイメージを
心の中に描いて、情熱を奮い立たせるためだったに違いない。
がんばれ若者!だ。

(2007年5月)
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