石の2 外国人観光客が敬遠する日本式観光旅館

旅館1 ネット上で、日本の観光業に関しておもしろい提言を読んだ。
もっと五つ星ホテルを増やせと言うのだ。五つ星ホテルというのは、
客のあらゆるリクエストに応じてくれるシステムを持つ高級ホテルで、
あり、その分料金は高くなるが、日本にはそれが足りないという。

日本には28軒の五つ星ホテルがあるが、日本よりも世界からの
観光客が多いタイでは110軒もあるという。要するに、積極的に
金持ちをターゲットにしているのだ。日本は収入の格差があまりない
国なので、例えば一泊20万円のホテルの部屋などは、そんなもん、
ほとんど需要がないだろうと思いがちだが、そんなことはなくて、世界
を見ると、めちゃくちゃな金持ちがとても多いのであって利用率は高い
のである。そして観光収入で稼いでいる国というのは、そういう金持ち
をしっかりと相手にしているのだ。いわば、観光客数という量よりも
質と金額で稼いでいるのである。

そしてこの先、ますますインバウンドの外国人観光客が増えそうな
日本ではますますホテルの需要は増えるだろう。その場合、日本人
が考えるのは、先進国で物価の高い日本に、アジアなどの国から
観光客を増やすためには、安いホテルなどを増やさなければいけない
だろうと思いがちだが、海外旅行をする人というのは、基本的にお金持ち
なのである。そして普通の人でも、そのためにお金を貯えた人なのである。
だから、カプセルホテルや民泊などの、あまり安い宿ばかりを増やさなく
ても、もっと胸を張って五つ星ホテルを増やせばいいのである。

日本人の中には、おもてなしや気配りなら、石川県の加賀屋みたいな、
超一流の日本式の観光旅館がたくさんあるので、外国人をもっと
ああいう施設へ案内すれば良いと言う人もいる。畳の部屋や、浴衣に
憧れる外国人は実際多いのである。さぞ喜ぶはずだと思いがちだ。
しかし、それは勘違いなのである。

なにしろ、和風観光旅館というのは、昔なら社員旅行や修学旅行、
あるいは最近でも法事で親戚が集まる場合だとか、基本的に団体で
旅館2 一泊する客用に作られている、昭和の旅行形態のなごりなのであり、
今はどんどん廃れているのである。
夕食はお仕着せの宴会料理であり、メニューは選べず、基本的に
誰もが同じ料理を食べることになっている。朝食はビュッフェ形式で
あり、これも自分の好みをリクエスト出来ない。日本人ですら観光旅館
に一週間泊まれと言われたら嫌だろう。毎日、刺身や天ぷらや豪華料理
では飽きてしまう。それよりも、ホテルに泊まれば、外に出かけて、夜は
居酒屋で好きな料理を食べて飲み、朝食も外のレストランで取れる。
その方がはるかに自由で合理的である。

そして、日本人は短い休みしか取れないので、あちこちの観光地を
忙しく見て廻るというパターンの観光が多いが、外国人観光客の場合は、
休日をまとまって取れるので、気に入った所があれば、同じ場所に腰を
落ち着けてのんびりしたい人が多く、そういう場合、観光旅館というのは
連泊に向かないのである。そして、安い民泊を増やそうというのは、
トラブルを増やすだけである。それよりは、五つ星ホテルを増やす方が
日本にとってもいいし、外国人観光客にとってもうれしいのである。

参考:「世界一訪れたい日本のつくりかた」デービッド・アトキンソン
(2018年11月)

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