黒皮のコートが大流行した頃


１９９０年代だったが、三菱パジェロなどの４WDが
大流行していた頃、時を同じくして、黒皮ファッションの
大ブームが日本中に巻き起こった。
あの頃の若者や中年の人！みんな、覚えているだろうか？
とにかく、街を歩くと、若者から中年まで、黒い革の
ブルゾンや、黒革のミニコートだらけだったのだ。
テレビに出てくる芸能人もやたらと、着ている。
そして、流行とは恐ろしいもので、黒皮を着ていると、
誰でも、カッコ良く思えてくるから不思議なものだ。

その年の１２月２４日のクリスマス・イブ、ぼくは、
仕事の関係で福岡から東京の渋谷に来ていた。
渋谷のスキヤキ店の個室で、会議兼忘年会があり、
ぼくは当然、スーツにネクタイ姿で来ていたが、
店は、よりによって、パルコから公園通りに近い所にあった。
日暮れ前は、まだ、いろんな年代の買い物客で
にぎわっていたが、さあ、会議が終わり、宴会までの
休憩時間に、妻へのクリスマスプレゼントに、
おしゃれな小物でも買おうと思って、表に出て驚いた。

暗くなった渋谷の街には、若者しか歩いていないだ。
それもカップルばかり。さすが、クリスマス・イブである。
ネクタイをした中年サラリーマンなんて皆無である。
ぼくは、ちょこまかと、ブティックを回りながら、
さすがに居心地の悪さを感じていた。
もう、何を買ったか覚えていないが、そそくさと店に戻った。

とにかく印象に残っているのは、若者のほとんどが、
黒皮のブルゾンかハーフコートを着ていたことと、
公園通りの道端には、ずらりと４WDの大型の車が
列を成して駐車していたことだ。
要するに、あの頃のモテる男の条件は、
その二つを満たしていることであり、金を持った男は
それにこぞって走り、その夜はレストランや、シティホテル
を予約しており、素敵な夜を演出したのだろうことだ。

その後、パジェロなどのオフロード・タイプの４WDは、
当時はとにかく大人気であり、今でも人気はあるが、
黒皮ファッションは、２年くらいで、姿を消した。
乱れ咲きというくらいに大流行して、あっという間に去った。
何だったんだろう？と思う。
今でも、当時に黒皮を買い込んだ人で、タンスの奥深く
眠らせている人が多いのではなかろうか？

ぼくは、あまのじゃくなので、大流行していても、
絶対買わずに、むしろ、白っぽいコートを着ていたが、
その数年後、ぼくらが福岡を去る時に、飲み会をしようと
長崎と熊本からやってきてくれた親友二人がそろって、
黒皮のコートだったのには、少々、ずっこけてしまった。
おい、友よ、お前達も流行に乗ったのか？　でも、
もうそれは、流行遅れだぞ、と言いたかった。
あまりに流行が激しすぎると、それが去った後に、
それを着ていると、妙に野暮ったく感じるものなのだ。
それにしても、日本人って、一斉に
同じものにドドッと走る習性があるのだ。
今現在、あの頃の黒皮のコートを着てる人は全くいない。
あれは幻だったのか。
（２００６年１０月）


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