2の石 食事の作法


焼き肉 狂牛病が発生する以前のことだが、近所においしい
 焼肉チェーンの店が出来て、ずいぶんと通った。
 焼き肉の他に、盛岡冷麺もうまいし、ビビンバもうまい。
 「ビビンバって、おいしいわねえ」と、優子が感心する。
 「韓国人に生まれればよかった」とまで言う。
 ただ、これは彼女独特の、料理に対するホメ言葉である。
  おいしいピザやスパゲティを食べた時には、
 「私、イタリア人に生まれればよかった」と言うし、
  極上の寿司や、すき焼きを食べた後は、
 「やっぱり日本人でよかった」と、すぐ日本人に戻る。

 ぼくらが福岡にいた、1900年代の初め頃、
 日本全国に、イタめしブームが起こり、
ミーとソース  ピザとスパゲティーがいっせいに、本場風の味になり、
 いきなり、全国的にうまくなった。
  ピザの生地が、それまでのパンの延長みたいな、
 ボテッとしたものから、薄くなり、味わい深くなり、
   スパゲッティ-も、ぺペロンチーノだの、ペスカトーレ、
 カルボナーラなどのメニューが普通になった。
  中年世代には、スパゲッティ-というと、
 ミートソースか、ナポリタンだったが、その二つは
 一気に過去のものとなった。

 ただ、イタめしブームの最初の頃だったが、
 麺をフォークでからめる時には、左手にスプーンを持ち、
 そのスプーンの上で丸めて口に運ぶのが、本場の
 イタリア流の食べ方だと、言われたことがあった。
 そうなのか、と僕も、しばらくはそうしていた。
  ところが、よくよく聞くと、それは子供の食べ方であって、
 普通の大人は、スプーンは使わず、ほとんどは、
 フォークだけで、皿の上で巻いて食べているという。
 なんだ。早く言えよな。
ライス   海を隔てると、そういう勘違いはよくある。

 思い出すのは、中学生の頃に教えられた、ステーキを
 食べる時の作法である。今から思えば笑い話だが、
 ご飯はフォークの背に乗せて口に運ぶのが正式だ
 と言われたことだ。当時は、ちゃんとした大人に、そう
 教えられたので、必死にそうやったが、
 今にして思えば、ほとんど曲芸である。

 また、麺類をズルズルとすする日本式食べ方は、
骨1  西欧では嫌われるとは知っていたが、中国でも嫌う
 そうである。中国は、汁麺の本場だから、なんとなく、
 日本と同じように、ズルズル食べると思っていたが、
 違うらしい。左手にレンゲを持って、それに、
 乗せるようにして、音を立てずに食べる。
  だから、香港人は日本人観光客がズルズルやるのを
 とても嫌がっているらしいのだ。加えて、
 日本人が汁麺をドンブリごと抱えて、スープを飲むのも
 「犬みたいだ」と嫌がるというのだ。

  そのくせ、中国人は魚の骨などをテーブルの上に
骨2  ぺっぺっと吐き出して平気でいる。
  それを日本人が汚いと言うと、あちらの人は、
 「日本人こそ、口の中から出した魚の骨を、
 食べ物の皿に戻しているが、そっちの方がよほど汚い」
 と反論するそうだ。ふーん。


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