石の2 親友2人が仙台観光に来た

親友1 長崎から親友2人が初めて仙台に来ることになった。2泊3日である。
ぼくはプランをいろいろ練った。一日目は市内中心部のホテル、二日
目は松島の観光ホテルに宿を予約した。その上で、どこか行きたい
所があるか?と聞くと、2011年の東北大震災の被災地を見たいという。

それならば、彼らが降り立つ仙台空港はまさに、その時の大津波で
被害にあった中心地である。その滑走路を、駐車場にあった大量の
自動車や、軽飛行機などが津波に流されてドンブラコドンブラコと漂っ
たのである。そして「オトモダチ作戦」でやって来た米軍がまず手始めに
やったのが、この空港に輸送機が離発着できるように泥を片づけること
だったのだ。今でも仙台空港から海の方向を眺めると、そこには
津波に流されてカスカスになった松並木のカケラが見える。
さらに、テレビで空からずっと中継していた、黒い津波が海辺の住宅街を
飲み込んで行く映像は、そこから車で5分の閖上地区である。そこを
ドライブして見せたが、草ボーボーの荒れ地が広がり、海は見えないし、
見えるのは殺風景な工事現場の土盛りばかりである。実際にその光景を
見た彼らはウームと言葉少なに唸っていた。

親友2 次に、市内を走ると、中心部を蛇行している広瀬川を橋で何回も渡る。
友人2人は、ぼくが長崎に帰って一緒にカラオケに行くと必ず、全国的に
大ヒットした「青葉城恋唄」をいつも歌って歓迎してくれたものである。
「広瀬川、流れる岸辺~♪」である。だから、本物の広瀬川を見せると、
おおーこれか!と感激してくれたのであった。
ところが後日、意外な事態が起きた。親友2人の後に、今度は長崎の甥が
来たのだが、同じようにぼくが仙台市内をドライブして「これが広瀬川だ!」
と指さしても何の反応もない。「広瀬川~♪」と歌っても「誰の曲?」と
聞かれる。そうか、世代が違うとこの曲を知らないのだと初めて知った。
甥っ子は40歳なので、それより若い世代の九州人は「青葉城恋唄」なんて
全く知らないということになる。肝に銘じておかなければならない。

仙台城跡は高台にある。といっても、家康に遠慮して天守閣は築かなか
った。その代りに清水寺のような造りの、城下を見渡せる華麗な御殿を
築いていた。今は広場になっているが、とても眺めがよくて仙台市内が
一望できる。そして伊達政宗の騎馬像があり、ほとんどの人がそれを
バックに写真を撮る。すると鎧を着込んだ伊達武将隊というのが近くに
常駐していて、パフォーマンスをしたり、写真撮影に応じてくれる。この
武将隊というのは日本全国にあるらしく、今では連携を組んで各地に
派遣されたり招いたりのショーをやったりのプロになりかけている。

親友3 仙台の市内観光でここは必須と思うのは、定禅寺通りのケヤキ並木で
ある。4重のケヤキ並木になっていて、背丈も高く、ほとんどヨーロッパ
の景色である。長崎にはこんな見事な並木なんてないので、友人2人も
見上げてウットリしていた。そして夜は、その近辺にある国分町という
飲み屋街に出る。そして、仙台名物を食べさせてみた。まず牛タン、
そしてホヤ。ぼくはどちらも嫌いなので、2人がどういう反応をするかに
興味があった。牛タンはたいていの人が気に入るようだが、ホヤには
さすがに微妙な顔をしていた。うまいというのは5人に1人だろう。

2日目は松島に行く。仙台から車で40分くらい。松島というのは宮島、
天橋立と並んで日本三景である。何が良いのかというと、湾内に小島
がたくさん散りばめられていて、その穏やかな風景が心をなごませる。
しかし、ボクに言わせると同じ様な風景ならば、長崎県佐世保市の
九十九島の方が遥かにすばらしいと思う。しかも海に夕日が沈むので
なおさら美しいのである。ところが似たような風景が、東日本では
松島にしかないのである。関東以北の海といえば、どこもノッペラボー
の広大な砂浜か、断崖だけである。奈良や平安時代の歌人が、京都
から東北までそういうノッペラボーの海岸線ばかりを歩いてきて、疲れ
果てたところで、松島のような箱庭のような自然に突然出会ったので、
親友4 よっぽど感激したのだろう。それで日本三景になったのである。
松島でぼくが選んだ観光ホテルは高台にある「大観荘」である。
ここならまず見晴らしに間違いはないし食事も良い。

そして松島という観光地は、常に観光客が多い町であり、そこに行けば
それなりの観光地気分が楽しめることには間違いがない。ただ、食事を
しようとすると、どこも観光地値段で高く、あまり良い店がない。特に店の
表にオバサンが立って呼び込みをしている食堂は敬遠した方がいい。
むしろ「松島お魚市場」が楽しくて美味い。

仙台にお客を招待する場合、九州人は雪が珍しいので冬に来たがるが、
ぼくはどちらかといえば11月に来て欲しい。なんといっても紅葉が素晴ら
しいのだ。こんな紅葉は九州ではまず見られない。わざわざ山の奥地に
連れて行かなくても、市内の並木通りのあちこちが極彩色になる。まず、
緑、黄色、赤とグラデーションを作ってくれるのがケヤキの並木である。
それに加えてカエデ類の真っ赤と、真っ黄色のイチョウの並木。もうそれ
だけで九州人は瞳孔が全開になり、陶然となり、絶賛の言葉を叫び続け
るはずである。ぼくがそうだったのだから。
(2018年12月)

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