石の2 スパ・リゾート・ハワイアンズ


福島県・いわき市に、おもしろい温泉施設がある。
フラダンス1 ハワイを味わえる「スパリゾート・ハワイアン」である。
東北の温泉のほとんどが、その豊かな自然を活かして
みちのくの風情を演出しているのに、ここだけは、
いきなり、ハワイである。

その昔、ここは常磐炭鉱という、石炭の町だった。
それが石油に押されて、産業が廃れて、
町が存亡の危機に陥った。
その時に、時の町長が考えたのが、
土地に湧き出る温泉を活かしての再生だった。
普通の温泉ではおもしろくない、よし、ハワイだと考えた。
当時、ハワイというのは、金持ちが船で行くもので、
「憧れのハワイ航路」という歌が流行ったくらいの、
庶民には、夢のまた夢、という観光地だった。

少し無理はあったが、それを再現しようとした。
大きな温泉プールを中心に、観葉植物を配置し、
舞台では、土地の娘にフラダンスを躍らせた。
まだ珍しかったので「尻振りダンス」と言われた。
当時の施設名は「常磐ハワイアン・センター」である。
この奇抜なアイデアが成功した。
昔の東京人で、この名前を知らない人はいない。
それが苦労しながらも、成功した物語は、
NHKの「プロジェクトX」でも放映された。

これが、改修を加えながら、大きくなって
スパ 今もスパ・リゾートとして、それなりの人気がある。
行ってきました。入場料2800円。
バス・ツアーの大型バスがずらりと並んでいる。
継ぎ足しの建物なので、古い棟もあり、
その古い部分の大広間が休憩所になっている。
コンクリート造りの「海の家」といった感じ。
ロッカーに荷物をいれて、着替え室で水着に着替える。
その後は、館内全てを水着で歩く。

波のある大型プールに続いて、イベント舞台があり、
レストラン街、熱帯動物園、さらに、日本風の大露天風呂
まで整備されていて、それらを通路が迷路のように
結んでいて、そこを水着の男女がゾロゾロ
歩いている。なんか、変におもしろい。
通路の先には、どんどん増築された様々な
趣向の温泉プールが、魔法のように現れる。
室内にローマ風のやら、屋外にポリネシア風のやら、
まるで、千と千尋の世界である。

イベント舞台を見下ろす通路には、家族連れが
水着のまま、シートを敷いて陣取っているし、
では、とイベントを眺めたら、日本人のフラダンスと、
男性の炎の棒を操るショー。
ぼくらは、ハワイの「ポリネシアン文化センター」で
本物の炎の演舞を眺めて来たのだが、いわば、
日本人による、そのそっくりショーだ。

昔と違って、今ではハワイに行った人も多いのに、
露天風呂 そういう人でも、この擬似ハワイをわかった上で、
おもしろがって来ている人が多いみたい。
納得済みのおもしろさというか。
みやげ物店では、マカデミアナッツも売られている。

仙台の海水浴場はヤンキー風の若者ばかりだが、
こちらはそういうのは居らず、家族連れや
普通の若いカップルで占められている。
さすがのヤンキーも、擬似ハワイでは
カッコがつかないのだろう、
そういう意味でも、ぼくは気に入ったのだが、
妻の意見は少々違った。

妻は「あそこはもう、いい」と言う。
理由は、トイレが古くて汚いし、着替え場所も
狭いし、休憩所も古いからだと言う。
おもしろいんだけどな。
ハワイアンズさん、なんとかしてくれ。
女性にとっては、トイレの清潔さが問題なんだ。
男のトイレはどうでもいいから
(2000年)

■2006年、映画「フラガール」で、この施設の草創期の
 苦労が描かれ、炭鉱の娘達が、フラダンスの先生に教えられ
 育ってゆく過程のドラマが涙と笑いを誘い、主演は蒼井優や、
 松雪泰子、豊川悦司だったが、この作品がその年の邦画部門で、
 キネマ旬報でのベストテン第一位、日本アカデミー賞でも
 最優秀作品第一位に選ばれた。

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