石の2 大相撲を観に行く


相撲2 といっても、本場所ではなく巡業相撲の仙台場所である。
8月の12日と13日の二日間だったので、13日のチケットを
一か月前に買って楽しみにしていた。なにしろ、本物を見物する
のは初めてである。場所は富沢体育館。2階席で、5000円。
体育館だから暑いだろうなと思っていたら、なんの、クーラーが
よく利いていて快適だった。昭和とは違うのだ。
午前8時に開場というので、その時刻に入ったが、まだ空席が多く、
お客さんも辺りをウロウロしている。そして土俵では10人くらいの
幕下力士が交互に稽古をしている。それが3時間も続いた。要するに、
その間は、力士も会場や廊下をウロウロしていて、お客との接触タイム
なのである。お客は力士に話しかけたり、サインをもらっていたりする。
だから、客もろくに席についていないのだ。あるいはそれを知っていて、
遅れてやってくる客も多い。

稽古が終わると、子供相手の相撲である。まわしをつけた小さな子供達
相撲3 が力士達に次々にぶつかっては、ヒョイとつかみあげられたり、力士も
わざと負けてあげたりして観客の笑いを誘う。子供相撲の最後には、
県大会で優勝したという一回り体格のよい子が現れて、客席からも
歓声が上がる。すると、周りにいた力士のうちの2人がすかさず、そこら
辺に置いていた汗ふきのバスタオルを取り上げて、賞金旗に見立てて
土俵を周り、これにはお客が爆笑していた。多分、いつもやる演出なんだ
ろうが、初めて見た分にはかなり笑える。
次に、初切(しょっきり)という、2人の力士が相撲の禁じ手を紹介するの
だが、これがほとんどギャグとコントで笑わせてくれるし、実にうまい。
その次が、化粧まわしをつけた力士達が土俵上で交互に歌う「甚句」が
あり、これも最期には、「仙台に来ましたが、今日でもうお別れで辛い」
と節をつけて歌っては、全員で涙をぬぐうフリをしたりと、笑わせる。

そして、序二段から十両、幕入りと実際に取り組みをするのだが、本場所
とほとんど同じ力士が揃うものの、ただ、ケガをしないようにしているので
ほとんどの決め手が「寄り切り」である。ただ、十両で「宇良」というのだけは
sumou4 違った。アクロバチックな取り組みをすることで有名で、この日も奇抜な
相撲をやって勝っていた。そして、最後は横綱が土俵入りを行い、
最後の取り組みは、横綱・白鳳と、横綱・日馬富士のモンゴル同志だった
が、こればかりは力相撲になり、お客さんも盛り上がっていた。特に、
白鳳は塩を高く撒くのが特徴で、これがきれいに撒くと評判である。

初めて本物の相撲を観に行って思ったのは、力士といっても意外に
小さいんだなということ。小さいというのは言い過ぎかもしれないが、
子供の頃に力士を見た時には、ほんとに大男に見えたものだ。それが、
大人になって実際に近くで見ると、横幅はすごいが、身長そのものは、
欧米出身力士を除くと、それほどの大男はいないのだ。むしろ、小太り
に見える力士もいる。ただ、その日見た中で、十両より下だったが、
一人だけ、細くてハンサムな力士がいて、これが力をつけたら話題に
なるぞと思ったのだが、そのしこ名が「光源冶」だった。

取り組みをしている間、あることが気になっていた。
土俵というのは、高さが60㎝あるので、途中に足をかける窪みがあるが、
正面には一つだけなのに、左右には3つある。なぜなんだろうと不思議
だったが、横綱が土俵入りした時に、その謎が解けた。横綱の左右には
露払いと太刀持ちがいて、その3人が同時に土俵に上がるのだ。その
相撲1 ための3つだったのだ。

ぼくが相撲の所作で一番好きなのが、取り組みの前に力士達が
化粧まわしをつけて全員が次々と土俵に上がり、揃ったところで全員で
一斉に化粧まわしを両手でヒョイと上げることである。あれが大好きで
あり、なんと魅力的なんだろうと思う。

さて今回の最後の取り組みでは、白鳳が勝ったが、前日は日馬富士が
勝ったというので、これも演出なのかなと思うが、この両横綱を見ていて
あることに気がついた。白鳳というのは顔がキリリとしているが、日馬富士
は眉がさがっていて、この組み合わせはどこかで見たなあと思ったら、
大鵬と柏戸だった。その見事な再現なのである。
(2016年8月)


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