石の2 映画007シリーズに関する想い出


スパイ イアン・フレミング原作、英国諜報員ジェイムズ・ボンドが活躍する
この映画の第一作目「ドクターノオ」が公開されたのが1962年。
日本での題名は「007は殺しの番号」。うまい邦題である。
スパイが主人公の、お色気もあるアクション映画として、世界中で
ヒットしたので、すぐに第二作目が作られた。
それが、「007・ロシアより愛をこめて」であり、日本での邦題は、
「007・危機一発」であった。「危機一髪」という四字熟語をもじった
のであるが、学生の中には勘違いして覚えてしまい、漢字のテストで
ペケをもらって「何で?」と不思議がる奴もいた。

そして1964年に公開された三作目の「007・ゴールドフィンガー」は
さらなる超大ヒットにになり、次の「サンダーボルト作戦」で、ほとんど
頂点を迎えた。あの頃の思い出として、中学2年の時だったが、
放課後に友人が、ぼくともう一人の友人に「いいもの見せてやる」と
校内の木陰に連れてゆき、カバンから出したのが007の愛用拳銃である
「ワルサーPPK」の黒光りするモデルガンだった。ぼくらは
「おおーっ!」と感激して交互に触らせてもらった。本物そっくりである。
その頃、中学生がモデルガンを購入するなんて、なかなか思いつかない
ものだったから驚いたし、拳銃というのは、握ってみて実に何と
存在感があるものかと感激したものだ。実に気分がワクワクするものであり、
スパイ2 男にとって銃とは興奮の塊りだと思った。その時、ついでに彼はこうも言った。
「007を、お前らゼロゼロセブンて言うとるやろ?あれは向こうでは本当は
ダブル・オー・セブンて言うとぞ」「へえー!」
少年はつまらないことにものすごく感心して驚愕するものである。

その後、ショーン・コネリーが5作目で主役を降りた後は、
ボンド役の俳優があれこれ代わり、ストーリーも荒唐無稽になり、
果ては宇宙まで進出したりして、今でもダラダラと続いている。

ただ、この007の映画が起こした波紋はすごかった。
それ以後、欧米の映画やテレビに、お色気とアクション満載の
スパイ映画があれこれ形を変えてゾロゾロ出てくるのである。
まずはジェームス・コバーンの「電撃フリントGOGO作戦」。
あの足の長さはアクションシーンにはもってこいだった。
次にディーン・マーティンの「サイレンサー・沈黙部隊」。
常に酔っ払ってるようなデレデレ顔の女たらしというイメージだが、
この人はいわゆるシナトラ・ファミリーの歌手であり、コメディアンの
ジェリー・ルイスと組んで作られた映画・底抜けシリーズはアメリカでは
とにかく大人気であり、日本でも次々と封切られて人気だった。
ジェームス・コバーンの方は「荒野の七人」で、渋いナイフ投げの役を
演じたことで覚えた人も多いと思う。

スパイ3 そして何といっても、テレビドラマのシリーズで大ヒットしたのが、
0011・ナポレオン・ソロ」である。主役はロバート・ボーン。ただ、
この人はどう見ても、政治家や議員風であり、実際、他の映画では
そういう役が多かった。そのせいもあり、彼よりもずっと人気があった
のは相棒のイリヤ・クリヤキン役を演じたデビッド・マッカラムである。
金髪のカットが独特だったせいもあり、女性に大人気になった。
しかし何よりも、この番組がヒットしたのは、日本語への吹き替えの
セリフの言い回しの軽妙さとユーモアである。

そして次にヒットしたテレビドラマ・シリーズが「スパイ大作戦」である。
これは原題を「ミッション・インポッシブル(不可能な使命)」と言い、
本国アメリカでは、30年後に映画化され、今でもトム・クルーズが
主演になってシリーズ化されている。ただ、これはテレビドラマの方が
はるかに大人のユーモアがあり、気分良く観れるるような気がする。
最近のスパイ映画はもっぱらアクションとCGの映像技術で驚かせるだけ
のシーンの連続であり、ストーリーも、まるでゲーム感覚の、味気のない
ものになっている。

スパイ4 振り返れば、こういうアクション映画で忘れてはいけないのが、ユーモアである。
「ゴールドフィンガー」だったが、金塊がつまれた金庫の中で、核爆発の装置を
止める最後の場面で、ボンドがあれこれ配線をいじって、やっとその爆発を
くい止めるシーンがあるが、あと10秒で爆発、あと9秒、8秒ときて「007」で止まる。
映画館は大爆笑である。こういうのがなければならない。

アメリカではお色気とアクションと、スパイ道具のアイデアで楽しませる実に陽気で、
おおらかなスパイ映画が全盛になったわけだが、007の本家のイギリスでは、
そういう傾向に対して反発するような気分があり、逆にシリアスなスパイ映画の名作が
生まれた。「国際諜報局(1965年)」がそれで、主役はマイケル・ケイン。
お色気もアクションもない。二重スパイが誰かを突き止める推理性の高い作品で、
脇を固めていたのも、「大脱走」で英軍の幹部を演じていた二人のイギリスの名優であり、
ぼくは高校生時代に観たが、今でも大好きなスパイ映画の一つである。
(2009年)

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