2の石 食べ放題


キングギドラ 一切無料の食べ放題というのに、一回だけ
 行ったことがある。招待されたのだ。1989年の
 福岡時代、イムズ・ビルがオープンした時だ。
  イムズといえば、福岡ドームやキャナルシティーができる
 前の福岡において、最先端のファッションビルというか、
 あらゆる情報の発信基地として、九州の地方少年少女が
 めざしてやってくる場所であった。
  当時の、最新のゴジラ映画でも、さっそく、キングギドラが
 やってきて、壊していたビルである。

  そのイムズがオープンする前々日、福岡の各界の
 実力者、知名人など二千人が招待されて、食べ放題
 パーティーがあり、次の日には、その他、福岡の
 あらゆる業界のナウい仕事をしていそうな職業の人間
 三千人に招待状が郵送されてきていたのであった。
 その中にぼくらもいた。
  選別リストを作った人間は、ぼくらが当時やっていた
 「シルバ・マインド・コントロール」を電話帳か何かでみて、
 うーん、何かわからんが先進的である、と思ったのであろう。
  ぼくらはその日、二人で山歩きに出かけ、その帰りに
 リュックを背負ったまま、夕食がてらにイムズに寄った。
 どんな格好をしてようと、なにしろ招待客である。
 このチケットを見ろ、というわけだ。
  11、12、13階の食堂街に直行すると、三千人がわんさかといた。

食べ放題   なにしろ、ナウい職業の人々ばかりを招待したものだから、
 ジーパンが多い。髪を後ろで束ねた男も多い。
 さあ、店は和洋中華の専門店が20店ほどダダーっと
 並んでいる。どの店で何をどれだけ食っても
 どれだけ飲んでも、一切タダである。
 頭にカーッと血が昇る。
  すれ違うナウい人々は男女とも目が異様に血走り、
 急ぎ足である。こちらも負けるものかと、急ぎ足になる。
 とりあえずお腹がすいていたので、
 比較的人の少なかった、キリンビール・レストランに入り、
 目の前にあったサンドウィッチと、ビールを共に食べる。
 しかし、サンドウィッチごときで終えるわけにはいかない。
 少量にとどめて、隣の中国料理店になだれこむ。
  中華料理ではない。中国料理だ。中華料理というと、
 レバニラ炒めとか、ギョーザライスという雰囲気になるが、
 中国料理となると、ずっと高級なものになり、ツバメの巣の
 スープとか、北京ダック、海鮮類の炒め広東風というもの
 になり、コックも中華人民共和国・一等調理師免許保持者
食べ放題2  の王(ワン)さんという人が作る。この人は日本語が
 しゃべれないので、下級コックへの指示は直接、
 広東語で行う。ほんとかいな。

 中国料理を食べながら
 「いかん、ここで腹を満たしてはいかん」
 と思う。まだ、イタリアとかメキシコなどが待っている。
  人の波をかきわけてイタリアへ向かう。
 牛肉の香草焼き風のものが、切り分けられて待っている。
 そこの肉汁がしたたっている部分、と狙っていたら、
 美容室野郎(そういう感じ)に先に取られてしまった。

 「あなた、ここは夜景もきれいなんだから、それも見なきゃだめよ」
 と言われてあわてて夜景を見る。どうでもいいがきれいである。

 隣のアメリカに行くと、ステーキやスペアリブがどかーんとあり、
食べ放題3  その隣のフランスに行くと、なまめかしいフランス料理が
 打ち上げ花火のように各種、並んでいる。特に人だかりが
 しているのがオマール海老料理だった。しかし、ほとんど
 残っていない。ここに先に来るべきだったと思った。
  早まってサンドイッチなど食うんではなかった。反省した。
 食べ放題というのは、いつもどこかの時点で「しまった」と
 反省することが多い。くやしさのあまり、
 オマール海老周辺にある欧風料理を食い散らかす。
 しかし、これも間違っていた。
  この他に、極上ネタの寿司も待っていたし、串焼きやカニも
 待っていたのだ。もうすでに、お腹がいっぱいになってしまった。
 サンドイッチを食べてお腹が落ち着いてしまったのが、
 かえすがえすも惜しい。

  その後、博多駅の向こうにできた、マイケル・ジャクソンも
 宿泊したという、超未来的なホテルのレストランの食べ放題に
 行ったこともある。オレンジとグリーンで統一されたイタリアンな
 ホテルの、レストランの一流メニューが2800円で食べ放題
 だということで、すぐ話題になり、二人で出かけて行ったのだ。
食べ放題4   もう行列。ラウンジで名前を呼ばれるのを待つこと30分。
 順番になって、「さあ、食わねば」と皿を片手に、
 スモークドビーフや、パイやサラダを山盛りにして
 ビールと一緒に席についたのだが、若い頃のように
 わっしわっしと食えない。うーん、くやしい。
 食べ放題なのに、儲けたという感じがしない。
  どちらかというと、値段より損したと思う。
 食べ放題に行って損したと思うようでは、食べ放題から
 いさぎよく身を引かねばならない。胃袋が小さくなったのだ。
 定食屋に入って「…の大盛り」と注文していた
 学生時代の胃袋がなつかしい。
 
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