石の2 洗濯物を天日で干す快感は日本だけ?

天日1 日本の洗剤のCMでは、青空を背景に白いシーツなどの洗濯物を
バアーッと広げて干す映像が多い。日本人のほとんどは、それを見て、
さわやかで気持ちが良いと思うのが普通である。日光に干すと、布が
シャキッとなって、匂いまでも気持ちがいいのである。だから、晴天の
日には、敷布団さえも、庭の物干しざおに干すことが多い。

ところが、そういう日本の主婦がアメリカに行って、同じことをすると、
近所の人からブーイングを浴びるという。日本ではマンションのベランダ
で洗濯物を干すというのは普通だが。アメリカでは、それがダメなのだ。
単純な理由としては、景観が悪くなるからである。まあ、日本でも、下町
ならいいけど六本木のマンションでは遠慮してくれ、というのがあるかも
しれない。とにかく、衣服を洗濯した後は、乾燥機で済ませてくれという
のが、アメリカのやり方である。もし、ベランダで洗濯物を干している居住者
がいるとしたら、乾燥機も買えない貧乏人が住んでいるということになる。
すると、近隣の不動産の価値が下がるのだという。
欧米というのは階級社会であり、金持ちと労働者とは住む区域が違う。
日本のように同じ町内に、社長と清掃人が一緒に住むということがない。
だから、外国人といえど一軒だけが、そういうことをすると迷惑なのである。

しかしなあと日本人なら思う。乾燥機を使うより、天日干しにする方が
電気代も使わないし、ずっとエコである。地球温暖化対策だの何だのいう
のなら、天日干しの方がずっと賢いはずである。そういうことで、欧米にも
そちらに賛成する人がいることはいる。乾燥機がなかった昔はそうしていた
のだし、庭が塀に囲まれていて、外から見えない家では天日干しをしている
ところもけっこうあるという。アメリカでは東海岸よりも、ロサンゼルスなどの
西海岸地方に、そして、アメリカよりもヨーロッパの方に、そういう傾向がある
という。しかし、都会のマンションや観光地では、観光客に与える印象も
天日2 あって、やはり見苦しいと思われ、禁止されているようだ。

ただ、欧米人が乾燥機で済ましてしまうのには、別の理由もある。
それは、あちらが日本と違って、空気がとても乾燥していることだ。欧米では
濡れた洗濯物は乾燥機にかければ、すぐ乾くのだ。欧米人は日本人のように
傘をあまり使わないが、それは濡れても陽が射せば、すぐに乾くということも
ある。日本のように雨で濡れると、いつまでもグショグショしていることがない。
すぐにカラッと乾く。だから、あちらの部屋は、日本のようにカビ臭くなることは
ない。ホコリ臭くなるだけである。
逆に、日本は湿気が多い。だから、乾燥機にかけたくらいではなかなか
パリッと乾いてくれないので天日に干したいのである。さらに、紫外線に
当てることで、いろんな菌も死ぬのである。これは最近知ったことだが、
歯ブラシを殺菌するのに一番効果があるのは、日光に当てることだそうだ。
日本は湿気があるので、とにかく常に日光が必要なのである。

そのために、日本には「日照権」というものがある。建物を建てる場合には、
他人の住居の窓に差し込む太陽光を遮ってはならないということである。
法律ではないが、日本に暮らす場合のワキマエである。ちょうど、欧米で
天日3 暮らす場合に窓に洗濯物を干してはいけないというのと同じことである。
そして、この日照権という考えが欧米にはないという。あちらでは、窓から
陽が入らなくても平気なのだそうだ。ニューヨークでもパリでもそうだという。
そんなに窓からの光が欲しければ、田舎に暮らせばいいと言われるそうだ。

そのせいだろうか、日本の家庭では、夜でも蛍光灯をこうこうとつけていて
とても明るいが、欧米の家庭では間接照明が多く、必要最小限の照明しか
つけない。元々、イギリスやロシア、東欧では曇りの日々が多く、暗いことに
慣れているのかもしれない。しかし、太陽が輝く、暖かい南欧の地中海に
憧れているのは誰もが同じで、そのせいで、夏の快晴の日には、肌の露出の
多い恰好で公園に行って日光浴をするのである。サングラスをかけて…。
とにかく、洗濯物や布団を天日干しにするのも、日照権を問題にするのも、
日本の古代建築がやたらと風通しがいいのも、日本が湿気の多い土地で
あり、太陽光が欲しいからだ。だから、アマテラスの国なのである。
(2017年3月)


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