石の2 福岡の天ぷら定食専門店

天ぷら1 福岡の食文化として今でも懐かしいのが、天ぷら定食専門店である。
ぼくらは福岡時代、平和台に近いマンションに住んでいたが、すぐ近くに
も一軒あった。カウンターだけの小さな店で、メニューは天ぷら定食だけ。
注文すると、すぐにご飯と味噌汁と、小さな揚げ物用のステンレスのバット
が目の前に置かれ、店主がすぐ近くで、次々と天ぷらを揚げ、一つずつ
順々にバットに置いてくれる。ネタは、エビ、キス、タマネギ、ナス、カボチャ
くらいだったか、それがとにかく美味いのである。その理由は揚げ立てだか
らである。スーパーの揚げ置きの天ぷらとは、おいしさが天と地ほどに違う。
さらに味噌汁もうまいし、ご飯もうまい。それで500円である。感激した。

ところが、仙台に来てみると、そういう天ぷら専門店というのがない。
とにかく目の前で揚げてくれる店で食べたいと探したら、一人前5000円
もする高級料理店だった。なんで?と思うのだが、どうも天ぷらを主人公
にして、目の前で出すということになると、それなりの職人でなければなら
ないと思っているようなのだ。ところが、なにしろ職人なものだから、これは
塩で食べろとか、次は梅塩で食べろとか、やたら食べ方まで指南する。
うるせえなと思う。こちらは、天つゆにジャブジャブつけて食いたいのだ。
福岡では500円で、そういう食い方が出来たのである。

天ぷら2 懐かしく思って、ネットで調べてみたら、実は、福岡には昭和38年頃から。
安い天ぷら定食の文化があったのだ。それらの店は主に、福岡の東区に
多かったという。主な店としては「ひらお」「たかお」「だるま」という3店舗が
昔から有名だという。カウンターには、イカの塩辛が置いてあり、無料で
食べ放題というのが共通らしい。当時は500円だった天ぷら定食も、
今では700円くらいになっているようだ。

ところが最近、こういう博多の天ぷら定食文化に、目をつけたのがなんと、
全国に、安いうどん専門店を、チェーン展開している「丸亀製麺」だという。
福岡風の安い天ぷら定食専門店のチェーンを全国展開し始めたという。
元々、丸亀製麺では、うどんの具として、天ぷらをその場で揚げており、
そういう意味では、ふさわしいかもしれない。
なにしろ、ぼくは丸亀製麺の店に入ると、うどんは食べずに、ほとんどが
天丼である。実は、四国のうどんのコシがあるのがダメなのである。
よく、タモリが言っているが、福岡というのは蕎麦屋は少なく、圧倒的に
うどん屋が多いのだが、そのうどんはコシのない柔らかいものでなければ
ならない。長崎もそうである。だから、ぼくにとって丸亀製麺というのは、
天丼の店なのである。そういう意味で、天ぷら定食専門店を出そうという
天ぷら3 のは、とてもわかりやすいのである。店名は「まきの」と言う。

そして、天ぷらに関して最近知ったことがある。
天ぷらは普通、サラダ油で揚げるが、関東の場合はゴマ油を混ぜることが
多い。これは、西日本は野菜の天ぷらが多かったのに比べ、関東の場合
は、江戸前の魚を材料にすることが多かったので、魚の匂いを消すため
だったという。そういえば、ぼくが小学生だった頃、長崎の家で天ぷらを
揚げてくれる場合、ほとんどサツマイモの薄切りだったように思う。
ステーキといえば鯨だった時代の話である。
とにかく、丸亀製麺の「福岡式天ぷら定食専門店」のチェーン店が
仙台にも来ることを待つことにしよう。
(2017年5月)


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