2の石 みやぎの明治村


 宮城県北部に、登米(とよま)町というのがある。
登米  ここが、なかなかよかった。散策するのにいい。
 町の観光キャッチフレーズは「みやぎの明治村」。

  観光の目玉は、明治21年に建てられた
 「旧登米高等尋常小学校」の校舎である。
 あちこちの山村で、廃校になっている小学校を
 いくつも見たが、いずれも木造とはいえ平屋だった。
  ところが、こちらは堂々の二階建て木造で、しかも
 廊下は洋風のバルコニーになっている。
 なにしろ、国の重要文化財であり、浩宮皇太子も
 見学に来たと、村では自慢している。

 赤煉瓦造りの正門も立派。
 二宮金次郎の像と、日時計もちゃんとある。
 中に入ると、もちろん板の廊下、木作りの机や椅子、
 そして、板ガラス(当時の窓ガラスは表面がやや、
 ゆがんでいたのですね)。

 中高年の観光客が目を輝かせて懐かしそうに眺めている。
 ぼくらも中高年の初心者なので、やはりナゼかうれしい。
 二階には、着物を着た子供達と、女先生の授業風景が
登米2  人形を使って再現されている教室があり、観光客の
 ためにカスリの着物が「写真撮影用に使って下さい」
 とのただし書きをつけて、ハンガーに並べてある。
  人がいなくなるのを待って、ぼくはその一枚をはおって
 人形の後ろに座り、ニッと笑い、
 優子がすかさずシャッターを押した。

  明治時代の警察署にも行った。
 (そういう建物ごとの資料館は寄せ集められているので
 はなく、町のあちこちに、そのまま残されている)。
  一階にはやや旧式の本物のパトカーと白バイも
 展示してあり、それは実際に運転席に乗ってみて、
 触れるようになっていた。
  目の前の受け付けにいる二人のおばさんがとても
 親切で、親子連れが来ると、子供に白バイにまたがる
 ように薦め、ヘルメットをかぶせて、その雄姿を親が
 喜んで写真撮影できるようにあれこれと心配りをしていた。

  親子が去った後、ぼくがパトカーの内部を覗いていると、
登米3  「座って見てください」と薦められ、
 ぼくが運転席に座ると、
 「このボタンを押すと、サイレンが鳴ります」と
 指差すので、押すと「ウーウー」と見事に鳴り、
 「このボタンを押すと、屋根の赤ランプが点滅します」
 というので押すと、ぼくにはわからなかったが、
 「あ、点滅してます」と叫んでくれ、もう一人のおばさんも
 「点滅してます、今のうちに早く」と、優子に写真を撮る
 ように促した。優子もあわててカメラを構え、
 ぼくもなんだか、うれしくなり、ハンドルを握りながら
 ニコッと笑って写真に収まったが、さらに、
 「運転席の中では姿がよく見えないから、右腕と顔を
 窓から出して笑って」というおばさんの指導に従い、
 その通りにしてもう一枚撮った。
  おばさんにとっては、パトカーの運転席に乗っている
 ところを記念写真に撮られる喜びは
 小学生も中年男も同じだと見抜いているらしかった。
 撮り終わって靴を履きながら、
 「よかったわねえ」という視線に送られて外に出た。

 この町では、どの施設でも、受け付けのおばさん達が
 とても愛想がよかった。この町を楽しんでもらいたい
 という情熱にあふれているように見えた。
 小さな町だが、武家屋敷の通りにも、商人の蔵通りにも
 昔ながらの景観が少なからず残されていて、
とよま11  本気で観光宣伝をしたら、あるいは、もうひとつ何か、
 人々の注目を集める何かがあれば、もっと有名になるのでは
 なかろうか、もったいないよなあと二人で話し合った。

 町中にはとにかく歩く人も少なく、ひっそりとしている。
 テレビの紀行モノ風に表現すれば
 「ここでは、時間がゆっくりと流れているのです」と
 ナレーションを入れるに違いない。
  町の横には北上川が流れている。その水量もすごい。
 河口の石巻まではまだ30キロもあるという。
 なんて豊かな河なのだ。ぼくらは、
 この登米町の隠れファンになってしまった。

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