石の2 鳥海山の麓…映画のロケ地


鳥海1 2009年、アメリカのアカデミー映画賞の、外国語映画賞
部門において日本映画の「おくりびと」が受賞した。
外国語映画賞では最初であり、大変な話題になった。
企画と主演が本木雅弘で、監督は滝田洋二である。
葬儀における納棺師という日本独特の文化をベースに
生と死のドラマをユーモアで包んで、静かに描いた作品だった。
日本映画はヨーロッパでは大変評価が高いが、アメリカの
ハリウッドで評価されることは少ないので、そういう意味でも
画期的だった。

この映画には、原作があって、実際に納棺師をやっている人の
体験を綴ったものだが、原作者は富山の人である。そして
映画を作った監督も富山の人である。にもかかわらず、
映画では舞台が山形県になったのは何故か?
山形県・庄内のフィルムコミッションの活動が大きかったのである。
フィルムコミッションというのは、映画の撮影を、ロケ地として、
全面的にバックアップする組織であり、町おこしも兼ねている。
そこが積極的に誘致し、それが功を奏したらしい。

それに、山形県というのは、日本の典型的な田園風景が、
今でも多く残されている風土だということも大きい。
鳥海2 宮崎駿アニメの「思い出ポロポロ」は山形市郊外だったし、
「スウィングガールズ」は高畠市や、南陽市が舞台だった。
山形県全体について言えることだが、高層のビルが少なく、
希少な田舎が存在しているのである。
そして「おくりびと」のワンシーンで、実に印象的だったのが、
主人公の本木昌弘が、河原で、白く美しい鳥海山をバックに
チェロを弾く場面である。何とも絵になっていた。
鳥海山というのは、山形と秋田にまたがっており、
なだらかな山裾を持ち、春にいろんな花の咲き始める頃も
市街地の向こうに、真っ白い姿で現れる山容は、九州人の
僕から見ても、ほれぼれとするものである。それゆえに、
鳥海山を仰ぐ小中学校、高校は、校歌の歌詞の中に
その姿を誇りとして必ず歌い込んでいるほどである。

そして、その鳥海山を背景にした映画といえば、
藤沢周平の小説を原作にした一連の時代劇がある。
「たそがれ清兵衛」(主演・真田弘之)
「隠し剣・鬼の爪」(主演・永瀬正敏)
「蝉しぐれ」(主演・市川染五郎)
「武士の一分」(主演・木村拓哉)
「山桜」(主演・東山紀之)

鳥海3 どれも、東北の田舎の架空の藩、「海坂藩」を
舞台にしているが、その実は藤沢周平の出身である
庄内地方の、庄内藩をモデルとしている。
庄内地方というのは、山形県の日本海沿いで現在の
酒田市と鶴岡市のことであり、藤沢周平が描いたのは、
その庄内藩における、田舎武士の矜持(きょうじ)なのであり、
自分に対する誇り、そして、人に対する愛である。
藤沢周平のエッセイを読むと、繰り返し繰り返し、
庄内の素晴らしさを書いている。

ちなみに、「蝉しぐれ」の撮影のために建てられた
羽黒町のオープンセットが観光地になったのを機に、
現地の101の企業や個人が株主となり、映画撮影の
ための「庄内映画村」という株式会社が設立され、
自然豊かな石倉地区に、26万4千坪の土地を確保し、
宿場町、農村、漁村などのオープンセットを現在、
建設中である。既に、そこでは映画「ジャンゴ」「ICHI」
「山桜」などの撮影が行われ、その先にも次々と
映画撮影が予定されている。完成後、一般客にも、
2009年8月から公開が予定されているという。
仮称は「サムライワールド」。楽しみである。
(2009年3月)
…オープンすると「庄内映画村」という名前になった。

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