石の2 「ノルウェーの森」

ウッド1 「ノルウェーの森」というと、最近では村上春樹の小説の方が有名らしいが、
元々は、ザ・ビートルズが1965年に発表したアルバム「ラバー・ソウル」に
収録されているジョン・レノンの名曲である。ジョージ・ハリソンが、インド楽器
のシタールで伴奏したりして、幻想的な雰囲気を生んでいた。
原題は「Norwegian Wood」であり、それを日本語訳で「ノルウェーの森」とした。
ところが、これがとんでもない誤訳だったことを、当時ビートルズを日本に招聘
したプロデューサーだった人物(バイオリニストの高嶋ちさ子の父)も認めて
いる。実はそれをちゃんと直訳すると、なんと「ノルウェーの家具」なのである。
正確に言うと、ノルウェー産の松材で作った家具であり、原料が安いので、
値段も安い家具の代名詞だった。

ではこの曲の詞を翻訳してみると、こういう風になる。
知り合った女性に「私の部屋に泊まっていってもいいわよ」と誘われた
若い主人公のぼくが、彼女の部屋に入ると、ノルウェー産の家具がある。
しかし、椅子はない。(つまり、彼女は所得の低い層である)ぼくらは、
敷物の上で午前2時までワインを飲んで語り合い、ぼくはその先の事を
期待していたが、彼女は「明日は仕事が早いから」と、曖昧に笑った。
若くて気の弱かったぼくは、ひどく落ち込んで風呂場に行って、一人で
寝た。翌朝起きたら、もう彼女はいなかった。だから、ぼくは家具に火を
つけた。ノルウェー産の家具だったよ…。(妄想)
つまり若いぼくが、大人ぶって背伸びをした言葉遊びばかりをし、大人
の女性に見透かされて、フラれたというだけの青春の回想だったのだ。

村上春樹がこの小説を書いた頃、誤訳だということを知っていたかどうか
は知らないが、このタイトルにしたのは、この小説の中で登場人物の
ウッド 誰かがビートルズのこの曲を好きで聞くという情景描写を書いたことが
あり、最後にタイトルをどうしようと思い悩んでいた時に、思い付きで、
このタイトルにしてしまったらしい。タイトルと内容に連携はないらしい。

どうも、ビートルズの曲のタイトルというのは、多くの人のインスピレー
ションを刺激するらしくて、他にも日本映画では「ヘルタースケルター」
とか「ゴールデンスランバー」など、映画の題名に意味もなく、そのまま
借用している場合がある。また、原宿の有名なバー「ペニーレイン」と
いうのがあり、音楽家の溜まり場で、これもビートルズのヒット曲から
頂戴したものだったが、吉田拓郎は「ペニーレインでバーボンを」という
曲まで作っている。要するにビートルズの曲のタイトルは、それだけで
ぼくの世代の人間にとっては、カッコいいのである。

最後に、村上春樹の小説のことだが、ぼくは彼のデビュー作である
「風の歌を聴け」の文庫本を読んだのは、社会人になってからであるが、
まあなんてキザな文章だろうと呆れてしまった。それ以来、読む興味は
湧かない。しかし、若者には受けるのだろう。揺れる感性というか…。
ぼくが青春時代に、サリンジャーを好きだったように。
(2017年8月)

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