石の2 ブルーインパルス


矢本1 ブルーインパルスといえば、1964年の
東京オリンピックの開会式で、陸上競技場の
快晴の空に、5色のスモークで五輪マークを描いた
航空自衛隊ジェット機のアクロバットチームである。
世界中が唸るような技だったらしい。
なにしろ、NHKの「プロジェクトX」の一話として、
その成功秘話が放送されたほどである。

そのブルーインパルスが所属している基地が、
宮城県の松島航空基地だという。知らなかった。
奥松島の矢本町に、その基地があり、
毎年8月の終わり頃に、「矢本航空祭」という、
航空基地を民間に公開しての航空ショーを
行っていて、とても人気があるという。

ぼくは、戦後のジェット戦闘機に関しては、
ほとんど無知だが、元々
太平洋戦争中のゼロ戦など、プロペラ機の活躍を
マンガ本でワクワクしながら、読んで育った世代である。
父は陸軍戦闘機「鐘軌」の飛行整備兵だった。
ブルーインパルス2 だから、戦闘機にはあこがれがある。

ぼくが行きたいというと、妻もよしよしと付いて来た。
当日、仙石線の電車はいつもより、わんさと混んでいた。
カメラを抱えた男性も多いが、家族連れも大変多い。
矢本駅から基地までは田んぼの中を歩くことになるが、
その途中に、物売りもたくさん出ていた。
スイカや氷、冷たいビールも露店で売っている。

ゲートを入ると、自衛隊グッズを売るテントも並んでいる。
各種航空機、ヘリコプターや20m機関砲の銃弾帯なども
展示されていて、家族連れが群がっている。
ぼくも興奮して見て回った。実物の迫力はすごい。

そのうちに、空に轟音が響き渡った。
航空ショーが始まったのである。胃に響き渡る衝撃。
なるほど、音は光よりも遅いというが、たしかに、
ジェット機が飛び去った後に、音が追いついてくる。
そして、その音の迫力にしびれる。
ジェット機は「来た!」と思ったら、すぐに彼方の空に
点になってしまう。あっという間である。F―15だという。
ジェット機は普通、高空を飛ぶものであるが、この日は、
地上に近く、飛んでくれる。ワオ!

そのうちに、ブルーインパルスの機体が滑走路に揃った。
F-4など、展示されている旧世代のジェット戦闘機に比べると、
だいぶ小型で、しかも正面から見ると丸みを帯びているため、
「ドルフィン(イルカ)」という愛称があるのだという。
矢本3 そして、何よりも驚いたのが、このT-4ジェット戦闘機は、
純国産なのだそうだ。
戦後、日本はアメリカによって、飛行機の開発製造を長い間、
禁止されたために、それが解除されてからも、やっと作れたのが、
YS11という小型のプロペラ旅客機だけだと、ぼくは思っていた。
ところが、こういうのも作っていたのだ。優秀な戦闘機だという。
そして、ブルーインパルスの曲技飛行も、スモークで円を描いたり、
ハートを描いたりと、見応えのあるものだった。

それにしても、8月の終わり頃とはいえ、炎天下の中、
群集に混ざって空を仰いだり、歩き回っていると、さすがに疲れた。
帰りの電車もほぼ満員で途中までは座れなかった。

そういうわけで、翌年は航空ショーも忘れて、宮城北部に、
海遊びに行ったのだが、帰りに車で矢本付近を通りかかると、
調度、航空ショーの日で、高速を走っていると、
目の前をブルーインパルスが横切ったので二人して狂喜した。
すごい!すごい!と言いながら、少し先の矢本Pに
車を止めて眺め入った。同じような人が大勢いた。
やはり、航空ショーは非日常の喜びで、たまらんと思う。
(2007年8月)

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