石の2 野菜炒め

野菜炒め1 「野菜炒め」といえば、町の中華料理屋や定食屋では一般的な定食
メニューである。豚の生姜焼き定食や、サンマ焼き定食などと並んで、
いくら食べても飽きない、おいしい料理である。が、ぼくにとっては、
その作り方がずっと一種の謎であった。
大学生時代はああいうものは、店で食べるものだと思っていたので、
最初から作る気もなかったが、それから40年、時々自分で作ってみる
こともあった。要するに肉のコマ切れと、玉ねぎとキャベツ、モヤシなど
をシャッシャッと、フライパンか中華鍋で、油で炒めりゃいいのだろうと
簡単に考えていたのだ。ところが、何回やっても、定食屋で出て来る
ようなおいしいものが出来たためしがない。

なにしろ、東京での独身時代に、いつも食べに行っていた町の中華料
理屋さんは、カウンターだけの小さな店だったので、目の前で調理する
のが見える。事前に切ってある材料を中華鍋に放り込んで炒めて、
アッという間に出来上がる。何が違うんだろうといつも不思議だった。
そのうちに、テレビでチャーハンをおいしく作るという番組があり、それ
によると、中華料理屋さんでは、火力の強さが違うのだと説明していた。
なるほどそうか!だから普通の家庭のガスコンロでは、やはり無理なん
だと納得したのだった。しかも、その頃になると「美味しんぼ」という美味、
野菜2 グルメを求める内容の漫画が大ヒットして、そこでもチャーハンは火力だ
と紹介されていた。なら、野菜炒めも火力なんだろうと思った。

ただ、その後に今度はテレビで、「店と同じ味が作れます」ということで、
いろんな簡単調味料や、オイスターソースなどを宣伝するようになった。
へえ、そうなの?ということで、野菜を炒めて中華調理味などをパラパラ
振ってみると、なるほどそれなりの味になるのだから、感心してしまった。
そこで一端ぼくの頭の中で、その謎は解けたのである。
しかしまだ、なんか店の味とは違うという感じは残っていた。というのは、
ぼくが作る野菜炒めでは、完成品にやたらと汁が出るのである。しかし、
店で食べる野菜炒めや、レバニラ炒めでは、そんなに汁はない。

ある時、ドライブの途中で道の駅に寄った時、アメリカンドッグをを売って
いるような屋台店の中に、メニューとして「野菜炒め定食」とあったので、
「え!こんなところで作れるの?」と思って注文してみた。すると、エプロン
のお姉さんがフライパンで、しかも普通の火力のガスコンロでさっさと作っ
てくれる。おいしかったし、余分な汁もない。「なんで?」と思った。
そして、この頃にはもう、あらゆる疑問をパソコンのネットで検索する時代
になっていた。そこで検索しまくった。すると、わかったのは簡単な事だった。

野菜3 炒め物においては、材料はあらかじめ必ず、油通しなり、湯通しをして
おかなければならないのである。中華料理店では、事前にそれをやって
いるので、簡単な調理時間で済むのである。事前に熱を通してあるので、
おいしさが閉じ込められるが、ナマの野菜をいきなり炒めると、外の殻が
やぶれて水分が出てくるのだという。そして、家庭では中華料理屋のよう
に油通しをやらなくても、お湯にスプーンに少量の油を垂らしての湯通し
をやればいいし、もっと簡単な方法としては、キャベツや玉ねぎなどを
切った後、ポリ袋に入れてレンジで30秒ほどチンするだけでいいという。
ウソだろと思いながらやってみたら、そうやって炒めた野菜炒めは汁も
出ずにおいしいのである。味付けは塩と胡椒だけでいい。余計な調味料
も何も要らずにうまかったのだ。調味料でごまかさない、本当の野菜炒め
が出来たのであった。

もし、知り合いに中華料理屋で働いている人がいたら、そんなことは、
ずっと昔に知っていたかもしれない。しかし、そういうことがわかったのは、
このネット時代になってからだった。
(2019年2月)

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