石の2 星新一「夜明けあと」新潮社・1991年


ぼくは、幕末から明治時代への転換期に
人力車 人々が体験したであろう、混乱のゴタゴタに
ものごく興味があって、
そういうのを書いた本が、ないかなと探していたら、
ありました!それが、これ。
星新一といえば、わが国のSF小説界の大御所。
そして、短編の名手としても有名。
ぼくも、中学、高校生時代に、ずいぶん読んだ。

その星新一が、自分の蔵書として持っていた、
「新聞集成・明治編年史」全15巻という、
当時の新聞記事があり、その中から星新一が
抜粋して本にしたのが、この「夜明けあと」である。
さすがに、抜粋した記事にセンスが光る。
そこから、さらにぼくが抜粋したのを、以下に紹介します。
ほんと、おもしろくて笑えます。

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・ 米人スネル、敗れた会津藩の住民を数十人つれ、カリフォルニアに移住させる。
 米の耕作も可能なり。(明治2年)…のちのカリフォルニア米。

牛鍋 ・ 横浜の宣教師が、病身の妻のために車つきの乗り物をつくる。
 和泉要助ほか二人は、それを改良し、人力車の営業をはじめる。
 やがて、英国、東南アジアへ輸出。機械の輸出は車が最初だった。
 (明治2年)

・ 寺院の規律が乱れているので、寺院寮という役所を作り、取り締まる。
 新政府が神社ばかりをひいきするので、僧侶たちはおもしろくなかった
 のだ。(明治3年)

・ この頃より、牛鍋を食べさせる店が繁盛しはじめる。
 仏教の力が弱まり、肉食が文明の象徴となったため。
 異人館に牛肉を納入する横浜の中川屋が、東京・芝に一般人用の店を
 出したのが始まり。
 しかし、調理法は西洋風でなく、イノシシ鍋と同じ。
 味噌、ネギ、豆腐などを肉に加え、山椒を少々。関西の「すき焼き」の
 名に統一されてゆく。セルフサービスでもあり、外国慣習の日本化の
 最初にして見事な例といえよう。(明治3年)

・ 中国原産、日本で栽培のスモモが、移民によりカリフォルニアに植えられる。
  (明治4年)…のちに品種改良されて、プラムの大産地になる。

・ ユリの根が輸出されるようになる。横浜から、年に10万個も。
 花も匂いも美しく、香水の原料になると。フランスで一鉢、80フラン。
 約16円とか。(明治4年)

銀座012 ・ 江戸時代は貧民の子も、二十歳ぐらいまでは働かなかった。
  最近は、中流の子も、十歳ぐらいで仕事につく。(明治4年)

・ この年末より、天皇も肉、牛乳を召し上がるようになる。また、
  羊毛のフランス式軍服を日常服とし、革の靴をはく。(明治4年)

・ 米国の人口3900万人、英国2600万人、日本3300万人。(明治4年)

・ 大阪。米商人が伝書鳩を使って相場の変化を早く知り、利益をあげた。
 (明治5年)

・ 2月、銀座、築地方面に火事。薩長出身の高官、大火を初めて見て驚き、
 レンガ造りの商店街を計画。(明治5年)…銀座の始まり。

・ 新しい店が出来ると、見物人が集まり、眺めつづけ。時間の空費は、
 文明ではないと考える。(明治6年)

・ 仇討ち、禁止される。殺人者を罰するのは、政府の大権なり。(明治6年)

・ 天皇、断髪なさる。皇后も少し前に、お歯黒をおやめになった。(同6年)

・ 夫は人力車、妻は針仕事で生活。ある日、妻が帰りに人力車に乗ったら、
 引く男が夫。代金は払ったという。(明治6年)

・ 葬儀用の人力車、19台が許可される。上等はミコシの飾りにて、鳥居、
 花立もつく。棒でかつぐより便利。(明治6年)

・ 郵便を運ぶ者、短銃を携帯すること。現金があると思って襲う者を防ぐため。
 (明治7年)

醤油1 ・ 駿河へ引退させられた15代将軍・徳川慶喜、陣頭に立って、伊豆の山で、
 ユリの根を掘り、輸出。かなり利益をあげた。(明治7年)

・ 天皇、23歳。新しい侍女と深い仲となり、皇后ご立腹。岩倉具視、その
 和解のために苦心。なんとか納まり、酒宴。(明治7年)

・ 金星が太陽面を通過。英米仏などから、観測隊が来日。なんの役にたつのか
 との疑問に、解説の記事がのった。(明治7年)

・ 醤油が西洋で好評。まがいものも作られ、出回っている。文明国にも
 たちのよくないのがいる。(明治8年)

・ 料理屋の代金。不足の場合でも、客の着物をはぐのはやめるようにとの通達。
 (明治9年)

・ 徳島のある村。農作物の盗まれること多く、投票で犯人をきめる。
  60数票のうち15票が、ある男に。その男、平伏して自白。
  法で裁かれるだろう。明治10年)

・ 人力車の走行距離を示す装置の、広告が新聞に。普及しなかったのは、
 お客がそれを信用しなかったためか。(明治10年)

・ 髪形、ハカマ、靴、カバン。女教師風の美人娼婦が大阪に出現。
明治02   評判となる。(明治11年)

・宮城県の原町(はらのまち)の住民。息子の葬式をヤソ教でやって、
  罰金二円五十銭。父親、これぐらいの金で、死者を天国へ送れる。
  みなさんもどうぞと話してまわる。(明治11年)

・ 新潟のある村で、神前結婚がなされ、奇妙なことと話題になる。(明治12年)
  おはらい、のりと、神酒と。(今なら、普通なんだけどね)

・上野の不忍(しのばず)の池に、蓮がたくさん植えられた。
 花が咲けば、美しいだろう。(明治12年)

・金沢の近郊、コレラを追い払おうと、旗、ワラ人形、笛、太鼓で
 「あっちへ行け」と行列を作って進む。その方向の住民たち、
 来るなと乱闘となる。各地で発生。(明治12年)

・大阪では、夜に巡回する警官は、ワラジばきとなる。靴音を立てないため。
 (明治13年)

・芝の芸者たち、線香ではかる報酬を、一時間いくらにと要求し、
 そうきまる。(明治13年)

その2に続く

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